理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-A-0187
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過疎地域の野球チームへのメディカルサポートの試み
野呂 章洋山本 泰雄浦本 史也皆川 裕樹井上 篤志
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抄録

【はじめに,目的】近年,障害予防の観点から野球選手及び指導者のメディカルサポートへの関心が高まっている。しかし,過疎地域で野球を行う子ども達は,医療機関が近郊にないため,メディカルサポートは愚か,スポーツ整形への受診もままならない。我々は,以前より都市部から離れた人口減少が著しいA市に出向き,メディカルサポートの一環として小学生及び中学生へのメディカルチェック及び傷害予防のための実技を織り交ぜた講演を行っている。今回,この活動及びメディカルチェックの結果についてまとめ考察を加えたので報告する。【方法】対象は,A市の少年中学野球チーム全3チームのうち,2チーム。今回の検討では年間2回(シーズン前2月,シーズンオフ11月)のメディカルチェックが可能であった24年度のデータの分析を行った。24年度にメディカルチェックに参加した選手は1回目の訪問時33名(うち,女子1名)2回目28名(全員男子)であった。このうち,2度のメディカルチェックに参加可能だった選手は,小学生10名と中学生5名。チェック項目は,身長,バランス,関節弛緩性,筋の柔軟性(SLR角,HHD),関節可動域(肘関節屈曲伸展,肩関節屈曲,第2肢位内外旋,股関節内外旋,股関節伸展)を実施。今回は,関節可動域と筋の柔軟性の項目について2度のチェック間で比較検討した。比較には対応のあるt検定を用いた(P<0.05)。なお,メディカルチェック時には選手と保護者,指導者の方へ障害予防講座も開催し,傷害予防の啓蒙とケアの重要性を強調し,後日チェックの結果とそれに基づいた各選手にあったストレッチメニューの提案を行った。【結果】チェック項目では,身長が平均156.1から平均161.2cmに増加した。可動域と柔軟性で有意差が出た項目は,左右の肩関節内旋可動域が右40.9±7.9から50.1±10.9に,左50.3±8.4から62.3±10.1に有意に増加し,左股関節外旋が51.1±7.4から45.6±9.6有意に低下した。(p<0.05)その他の項目に有意差は見られなかった。また,1回目から2回目の期間に野球を中止するほどの大きな障害の発生は起きなかった。【考察】佐藤らは,少年野球選手の肩内外旋可動域が一年間で左右共に有意に低下する事を報告している。今回の検討では股関節の一部の可動域に低下が示されたが,肩の内旋可動域は有意に改善を示し,他の項目においては可動域の有意な低下は示さなかった。また,身長が平均で5.1cm増加していたにもかかわらず,下肢の柔軟性にも有意な低下は示さなかった。これは,シーズン前の介入が少なからず好影響を与えたものと考える。一方,一回目に比較し2回目の介入で参加者が減少したのは,卒業に伴う選手の減少があるもののその事実に関しては,謙虚に受け止めて改善すべき点と考える。今後の過疎地域における野球チームでは,選手の数も年々減少傾向である。野球少年一人一人を大切にし,障害予防に心掛ける事が今後より一層重要になると考える。都心から離れた地域では,何度も現場に行く事ができないため,今後の展望としてネット環境を利用した啓蒙活動や障害予防DVDの作成などの介入も考えている。また,メディカルチェックを今後も継続してもらうために,選手はもとより指導者にも有用性を理解してもらえる活動を心掛けたいと考える。なお本研究の限界は対象数が少ない事や日頃から行われていたケア方法を完全には把握出来ていない等があげられる。【理学療法学研究としての意義】過疎地域へのメディカルサポートの介入はその方法と継続性を検討する必要があることを示唆した。

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© 2015 日本理学療法士協会
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