理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-C-0243
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可橈性の異なる装具が歩行時の身体運動に与える影響
近藤 亮介廣江 圭史田中 和哉中津川 寛文
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キーワード: 短下肢装具, 可橈性, 歩行
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抄録

【はじめに,目的】脳卒中片麻痺患者に歩行能力向上のため,プラスチック製短下肢装具(以下,SHB)を使用することは多い。臨床にて,SHBの機能的特性が身体機能へ変化を及ぼしている印象をうける。SHB使用による片麻痺患者の歩行改善は,装具本来の物理的補助に加え,関節角度や関節モーメントの変化を含めた総合的な要因によるものだと考えている。SHBは一般的に,素材の種類や形状で分類されており,その分類に応じた歩行分析の検証結果が多く報告されている。しかし,これらの歩行分析項目を使用した装具関連の研究では,短下肢装具の有無による歩行の改善を示したものが多く,SHBの素材の違いが身体機能に及ぼす影響について検討したものは少ない。本研究の目的は,SHBの素材の違いが,歩行時の関節角度,関節モーメント,体幹傾斜角度,下腿傾斜角度にどのような影響を与えるかを検証することとする。【方法】対象は既往に整形外科,神経疾患を有さない健常な成人男性7名(年齢26±10歳,身長17±5cm,体重61±1.5kg,足長26cm±0.5cm)とした。計測は光学式3次元動作解析システム(VICONMX,Oxford Metrics社製,MXカメラ7台及び床反力計(OR6WP,AMTI社製)を用い3次元空間内での身体体節の移動量を計測した。赤外線反射マーカーはPlug In Gait Modelに準じ,計39箇所に貼付した。サンプリング周波数は100Hzとした。床反力を基に1歩行周期を決定し,その内の立脚期1回を100%とし正規化した。SHBはコポリマー(以下co),ポリプロピレン(以下pp)2種類の素材で同型のものを使用し,装具を装着する下肢は全被験者で右側に統一した。課題はフリーハンドでの自由歩行とし,裸足,co,pp各条件で3施行した。立脚期の内,20%時点を立脚初期(以下Ic),50%時点を立脚中期(以下Mst),83%時点を立脚後期(以下Tst)とし,3相に分類した。歩行周期ごとの体幹傾斜角度,股関節屈伸角度,股関節屈伸モーメント,膝関節屈伸角度,膝関節屈伸モーメント,下腿傾斜角度を算出し,裸足歩行,co装着歩行,pp装着歩行の各条件おいて比較した。統計解析は一元配置分散分析に多重比較検定を行い有意水準5%未満とした。【結果】体幹傾斜角度は,どの相においても3条件で有意差はみられなかった。屈曲及び伸展角度は股関節でIc,MS,Tst全ての相においてco,ppに対して裸足が有意に大きかった(p<0.05)。屈曲モーメントは膝関節にてIcで裸足に対してco,ppで高値な傾向を認め(p>0.05),Mstでco,ppに対して裸足で優位に高値であった(p<0.05)。下腿傾斜角度はIcで裸足に対しco,ppで有意に大きく,Mstで裸足に対しppで有意に大きかった(p<0.05)。全ての歩行条件および歩行周期において,co,pp間でのプラスチック素材の違いによる有意差はみられなかった。【考察】本研究の結果から,健常成人の歩行はSHBの可橈性に依存しないことが示唆された。ヒールロッカーにおけるSHBの前方回転がてこの力を生み,足底の接地に伴って下腿を前方へ傾斜させる。下腿傾斜角度がIc~Mstにおいて高値を示していることから,SHBの足部固定という物理的な形状には依存することが考えられる。また,これはSHB装着により股関節の屈曲・伸展角度が低下している事の要因としても考えられる。Mstで裸足よりco,pp装着で膝関節屈伸モーメントが抑制されている理由としては,SHBの物理的な硬さが,膝関節屈曲・伸展を制動していることが考えられる。歩行時における角度変化が急激であるほど,同時に床反力ベクトルの変化も大きい。同一軸上で関節中心と床反力線の距離が遠いほど,レバーアームが大きくなり関節モーメントが大きくなるとされているが,屈伸角度が大きい群及び歩行周期において,屈伸モーメントは高値を示していなかった。本研究デザインは健常人を対象としたため,SHB装着による歩行時の対応が一様でなかったことが推察される。関川によると,脳卒中片麻痺患者における装具装着歩行は裸足歩行と比較し,歩行速度は増加し,麻痺側下腿の筋活動が増加したとされている。また装具機能として,関節運動を制御させるよりも補助モーメントを発生させる装具のほうがより身体機能の変化は著明であると示されている。素材が異なる各SHBの特性が,脳卒中片麻痺患者の歩行機能にどのような影響をもたらすかについては,症例での検証を含め,今後より深く検証していく必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】SHBの可橈性の違いが,身体機能にどのような影響を及ぼすかを示すことで,症例の装具歩行分析および装具選定における客観的な評価の手がかりになり得ると考えられる。

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© 2015 日本理学療法士協会
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