理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-C-0492
会議情報

ポスター
ストレッチポールを用いた正中感覚入力による腹横筋収縮力が姿勢アライメントに及ぼす影響
大島 広実五十嵐 ふみ我妻 真里高橋 俊章
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに,目的】脳卒中後遺症患者の多くは姿勢制御の不全により姿勢の非対称性を呈している。姿勢制御には深部体幹筋が重要な役割を果たしており,体幹がニュートラルポジションの時に活動が大きくなると言われている。姿勢制御が不全な脳卒中後遺症患者が,正中感覚を学習し,深部体幹筋を活性化させることは重要であると考えられる。近年,腹横筋が体幹の安定性に重要な役割を果たしていることが指摘されている。腹横筋に関する先行研究が行われているが,正中感覚の入力により,腹横筋の収縮力の向上や姿勢アライメントの向上を定量的に調べた研究は見当たらない。そこで,本研究の目的は,ストレッチポールを用いた正中感覚入力により腹横筋の収縮力が向上し,腹横筋の収縮力の向上により姿勢の正中位指向と安定性が向上することを検討することである。本研究において,正中感覚は身体の中心を感じることと定義した。【方法】対象は健常成人女性20名(年齢21.8±0.9歳,身長156.9±5.5 cm,体重52.3±5.3 kg)である。対象者はストレッチポール上に3分間背臥位となり,その後片脚ずつ足底を床から離し,膝関節伸展を30秒間実施した。介入前後でStabilizerTM圧バイオフィードバック装置(Chattanooga社製)を使用し,腹臥位にて腹横筋の選択的収縮のできる腹部引き込み法を実施し,60秒間収縮を保持する腹横筋活性化検査を行った。収縮値の記録として,介入前後の0秒・30秒・60秒値を記録し,腹横筋選択的収縮基準はStabilizerTM圧バイオフィードバック装置が70mmHgから-4mmHg以下に達した時とした。アライメント評価は静的立位・座位・片脚立位の時に行った。アライメント評価の基準線として,正中線を上前腸骨棘(PSIS)の中点と床を結ぶ垂直線と規定した。正中線と頭頂と第7頸椎棘突起(C7)を結ぶ線,両肩峰を結ぶ線,骨盤の両PSISを結ぶ線とのそれぞれの前額面とのなす角を求めた。重心動揺測定は静的肢位,立位および座位での前方・右側方・左側方の最大リーチ肢位の20秒間の総軌跡長を測定した。統計処理は,介入前後の各パラメータを比較するために,対応のあるt検定を用いた。また,各時期の腹横筋収縮値を比較するために,反復測定分散分析およびTukey法を用い,有意水準は5%とした。【結果】腹横筋収縮値は介入前0秒値-3.45mmHgに比べ,介入後0秒値-5.65mmHgは有意に向上し(p<0.01),介入後の30秒値-7.35mmHgは介入前の30秒値-4.95mmHg,および介入後60秒値-8.1mmHgは介入前の60秒値-5.4mmHgと比較しそれぞれ有意に収縮力が向上した(p<0.01)。また,介入後60秒値は介入後30秒値に比べ向上した(p<0.05)。アライメントは,介入後の静的立位および座位において,両PSISを結ぶ線,および両肩峰を結ぶ線がそれぞれ正中線となす角は介入前に比べ有意に90度に近づいた(p<0.01)。また,静的立位全において,介入後の頭頂とC7を結ぶ線と正中線とのなす角が,有意に減少した(p<0.05)。総軌跡長は開眼片脚立位の介入前後の値が63.2cmから53.5cmへ有意に減少した(p<0.01)。最大リーチ保持時では,立位右および前,座位の左で有意に総軌跡長が減少した(p<0.05)。【考察】本研究では,ストレッチポールを用いた正中感覚入力により,腹横筋の収縮力が向上し,また,腹横筋の筋持久力が向上することが分かった。頭頸部のアライメントは重心動揺に影響しており,骨盤の位置は姿勢アライメントに影響を及ぼすと言われている。本介入により,腹横筋の収縮力が向上し,また筋持久力が向上することにより,頭頸部および骨盤のアライメントが修正され,姿勢制御が行いやすくなったと考えられた。重心動揺に関しては,腹横筋が有効に収縮できるようになったことから,位置変化を伝えるフィードバックシステムが賦活化され,不安定な動的肢位での姿勢制御が容易となり,重心動揺が減少したと考えられた。【理学療法学研究としての意義】ストレッチポールを用いた介入により正中感覚が高まり,腹横筋が働きやすくなり姿勢制御が行いやすくなったことが確認された。このことにより,姿勢不全を呈する脳卒中後遺症患者に対して本介入を応用することで,姿勢制御が行いやすくなることが予測される。本研究により,ストレッチポールを用いた介入の有効性が示され,効果的理学療法のプログラムの開発に寄与すると考える。

著者関連情報
© 2015 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top