理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-C-0495
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傾斜板上の足関節肢位の変化による立位バランスへの影響
湊 恵里子笠原 敏史齋藤 展士秋山 新
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抄録

【目的】中枢神経疾患や廃用性症候群によって引き起こされる足関節の内反尖足はADLを著しく損なわせ,介護動作への負担増加を招く。理学療法において足関節問題は重要であり,様々なアプローチが試みられる。傾斜板上での立位姿勢保持は自重によって足関節の関節可動域を改善する有効な手段として急性期から広く用いられる。近年,傾斜板を用いて傾斜刺激や回転刺激を加えた受動的なバランス訓練が行われている。今回,立位での静的バランスに加え,随意的(能動的)な動的バランスへの傾斜板の影響を明らかにしたので報告する。【方法】対象は健康若年男性12名(平均年齢20.6±0.5歳)とした。床反力計上で傾斜板(20度)を用いて,足関節を背屈位,底屈位,そして中間位(傾斜板なし)に設定した。立位静的バランスは注視点で視線を固定した静止立位,動的バランスは随意的な足圧中心(COP)の前後方向の視覚誘導型追跡運動課題とした。動的バランスでは眼前の高さで1m前方のPCモニターからCOPに関するフィードバック情報を与え,モニター内を上下に移動する目標にCOPを一致させるよう指示した。12回の繰り返しのCOP前後運動後,出来るだけ素早く停止するよう指示した。重心位置(COM)及び下肢関節運動を計測するために三次元動作解析装置を用いた。Winterらに従い反射マーカーを設置し,座標データは10Hzのローパスフィルター処理後,各下肢関節角度とCOM位置を算出した。静的バランスはCOPとCOMの位置とその変動係数(CV),各下肢関節の角度変化を比較した。動的バランスは最後の3回を平均し,運動の正確さとして二乗平均平方根誤差(RMSE)を算出した。COPとCOMの前後振幅は足長,左右振幅は外果間,COMの高さは身長で正規化した。COP,COM,各下肢関節運動に関して分散分析および相関関数を用いて比較検討した。【結果】COPの前後と左右方向の位置とCVに異なる足関節肢位の間に差を認めなかった。足関節背屈位でのCOMは他の肢位に比べた有意に約3%高位であった(p<0.01)。傾斜板による実際の足関節の変化は背屈17.4度,底屈17.8度であった。股・膝関節に足関節肢位による差は認めなかった。分散分析の結果,COPのRMSEは足関節の肢位による差を認めなかった。背屈位で動的バランス時のCOPの運動振幅は他の肢位に比べ有意に小さかった。底屈位での動的バランス時のCOP運動に位相差の傾向を認めた。動的バランス時,ほとんどの被験者はCOPとCOMを同期させていた。3つの足関節肢位とも股関節運動はCOPと逆位相(r=-0.57(中間位),-0.26(底屈位),-0.29(背屈位))し,膝関節は同位相(r=0.43,0.30,0.22)であった。【考察】若年者を対象とした本研究では,傾斜板の影響は主として動的バランスでみられていた。足関節底屈時の踵部の上昇によって重心位置が高くなり姿勢保持の不安定を予想したが,静的立位時のCOPや股関節および膝関節の変化はみられなかった。今回のCOMの上昇は身長の約3%と小さく,また,健常若年者のため足関節の変化に十分順応していたと考えられる。一方,動的バランス課題は追跡の正確さに足関節肢位間の差を認めなかったが,COP運動は肢位による影響を示した。傾斜板の角度と足関節の正常運動可動域を考慮すると背屈位での背屈可動範囲は著しく制限され,COPの前方移動が困難となり,全体としてCOPの運動範囲は後方に偏位していた。底屈位では前方と後方の間で位相差がみられ,前方への過度で急速な移動による転倒を防ぐために慎重にCOPの動きを制御していたと推察する。足関節運動の制限により股関節運動の姿勢制御への関与の増大を予想したが,相関係数は中間位に比べ低値を示していた。このことは被験者間での大きなバラツキが要因の一つに挙げられる。Linら(2011)は,リーチ動作時の若年者は様々な運動戦略を用いると報告している。被験者間のバラツキは姿勢の不安定性を示すが,反面,姿勢・運動戦略の冗長性を表しているのかもしれない。この点に関しては,今後さらに姿勢・運動戦略に関して研究を行い,検証する必要がある。【まとめ】傾斜板による足関節肢位の変化が静的・動的立位バランスに及ぼす影響について調べた。健常若年者を対象とし,20度の傾斜板を用いた結果,静的立位バランスへの影響はみられず,動的立位バランスに影響を与えることが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】今回の研究は幅広く用いられている傾斜板への静的・動的立位バランスへの影響を若年者について明らかにした。本研究結果は理学療法の足関節問題に対するバランス介入訓練や足底板治療に役立ち,ADLの向上や介護負担の軽減に寄与する。

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© 2015 日本理学療法士協会
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