理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-C-0502
会議情報

ポスター
リーチ動作における姿勢戦略の検討
長部 弘幹大槻 暁花房 京佑
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに,目的】立位でのリーチ動作は日常生活の場面で頻繁に行われる動作であり,上肢の機能的活動の指標とされる。また,バランスの指標であるFunctional Reach Testで用いられる動作であり,姿勢制御の要素が強く関連している。リーチ動作における上肢や手の運動戦略に関する研究は数多くあるが,リーチ動作における姿勢戦略について明らかにした研究は少ない。立位姿勢における姿勢戦略は股関節戦略,足関節戦略,ステップ戦略に大別され,各運動戦略を組み合わせて姿勢を調整している。立位でのリーチ動作においても同様な姿勢調節が行われていると考えられる。そこで今回は,立位姿勢でのリーチ動作における姿勢戦略の経時的変化を明らかにすることを目的とし,最大リーチ動作時の股関節と足関節による姿勢戦略を検討した。【方法】対象は健常成人19人(平均年齢24.6±2.2歳)とした。実験は,立位姿勢における対象物に対するリーチ,把持の動作をビデオカメラにて撮影し,その間の下肢の姿勢戦略を分析した。被験者の右腋窩直下,大転子,外側膝関節裂隙,外果,第5中足骨遠位端にマーカーを貼付した。矢状面の運動分析のため,ビデオカメラ(SONY;HDR-CX430V)のレンズと大転子の高さと同じにし,真横に4m離れた位置に設置した。実験開始肢位は,安静立位で右上肢を肘関節伸展位のまま肩関節屈曲90°肢位,左上下肢は任意の肢位とした。目標物は,1辺が3cmの立方体を右上腕骨頭の前方延長線上に置いた。検者は目標物を矢状面上でリーチ可能な距離まで移動させ,被験者に前方の目標物を母子と示指で把持すように指示した。その際,体幹回旋による代償動作や足底が床から完全に離れることがないように注意し,母指と示指で目標物を把持するようにした。目標物を徐々に離していき,被験者がつま先を動かさずに目標物を把持することができる最大の距離までリーチ動作を繰り返して行った。記録した映像から最大リーチ動作試行時を解析に使用した。映像分析には,動画解析ソフトダートフィッシュver.5.5(ダートフィッシュ・ジャパン)を用いて,マーカーを目印に股関節と足関節の関節角度を30fpsで測定した。データ解析では,リーチ時間の個別差を補正するため,運動の開始から把持した瞬間までの時間を100%とし,開始から20%毎の区間における各関節の運動範囲を算出した。各関節の運動範囲は,個別差を補正するため,開始時から終了時までの運動角度に対する各区間における運動角度の比率を算出し,その平均値を分析に使用した。各関節での値を一元配置分散分析により比較し,有意差を認めた場合に各区間における運動角度の比率をturkyの多重比較を用いて比較した。統計解析にはSPSS(ver.21)を使用し,有意水準は5%未満とした。【結果】股関節の平均値と標準偏差は0-20%,20-40%,40-60%,60-80%,80-100%の区間(以下それぞれを区間1,区間2,区間3,区間4,区間5とする)でそれぞれ,0.24±0.16,0.37±0.13,0.22±0.10,0.10±0.10,0.07±0.06であった。隣接する区間の比較では,区間1と区間2,区間2と区間3,区間3と区間4は有意差を認めた。区間4と区間5では有意差は認めなかった。一方,足関節の平均値はそれぞれ,0.15±0.20,0.28±0.28,0.24±0.15,0.21±0.26,0.12±0.14であり,一元配置分散分析にて各区間に有意差は認められなかった。【考察】目標物へのリーチ動作において股関節は20-40%区間で最も速く大きく変化し,その後徐々に速度と変化率が低下し,60%を過ぎるとわずかな変化で経過するということが明らかとなった。立位でのリーチ動作における股関節戦略は一定のパターンで,重心の前方移動のために使われるということが推測される。一方で足関節戦略は,どのタイミングで多く使われるかは明らかにならなかった。足関節運動は,各被験者によってピークに差異があり,重心の移動や距離の調整などに使用されていると考えられる。足関節戦略は状況によって変化する多様性のある戦略と推察される。足関節戦略の分析と股関節戦略との関連性については,今後より詳細な検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】目標物へのリーチ動作における姿勢戦略を明らかにすることは,臨床での理学療法を行っていくうえで非常に重要なことである。課題に伴う姿勢戦略を適切なタイミングで使用しているかを分析し治療することは機能的な活動を獲得するために重要であり,今回の結果は,クリニカルリーズニングの一助となるもの考える。

著者関連情報
© 2015 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top