理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-A-0587
会議情報

ポスター
人工膝関節置換術における後十字靭帯温存が退院時機能へ与える影響
~CR typeとPS typeの短期的成績比較~
藤田 努藤吉 大輔時枝 美貴宮里 幸福田 伸之落石 慶衣根津 智之水内 秀城岡崎 賢高杉 紳一郎岩本 幸英
著者情報
キーワード: TKA, PCL, BBS
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに,目的】本邦の変形性膝関節症(以下,膝OA)患者は累計2,500万人と報告され,人工膝関節置換術(以下,TKA)は年間約7万例を越えて現在も増加の一途にある。また,活動性の高い若年者から老年期の高齢者までと,その手術適応範囲も幅広く拡大している。現在,TKAで用いられているインプラントには,後十字靭帯(以下,PCL)を温存するPCL温存型TKA(以下,CR-TKA)や,PCL切除型TKA(以下,PS-TKA)などが挙げられ,その特徴や手術適応,術後成績へ与える影響について,諸家による議論が現在も重ねられている。そこで今回,当院で施行したTKA患者のPCL温存の有無による退院時機能を調査した。【方法】対象は,当院にて2013年10月から2014年9月の間に膝OAの診断で初回TKAを施行し,退院時に理学療法評価が可能であった48膝であり,CR-TKA施行群(以下,温存群)14膝,PS-TKA施行群(以下,切除群)34膝であった。全例において,当院TKAクリティカルパス(以下,CP)に準じて標準的なリハビリテーションを実施した。除外対象は,合併症等で当院CPから逸脱した者や神経学的疾患を有する者,手術側に骨移植や脛骨骨切り術を併用した者とした。調査方法はリハ記録を参照し,在院日数,年齢,body mass index(以下,BMI),退院時術側関節可動域(以下,ROM,膝関節屈曲,伸展),術側筋力体重比(膝関節屈曲,伸展),10m最大歩行速度(以下,10mMWS),術前・退院時のBerg Balance Scale(以下,BBS)であった。なお,筋力はMINATO社製COMBIT CB-2を用いて最大等尺性筋力を測定した値を,それぞれの体重で除し,筋力体重比(N/kg)を算出して正規化した。統計学的処理は,対応のないt-検定を用い,有意水準は5%未満とした。【結果】温存群,切除群の順に,在院日数は,20±4.78日,21±3.93日で有意差を認めなかった。年齢は,66.5±8.5歳,75.2±7.6歳で有意差を認めたが(p<0.05),BMIは,28.7±4.4,26.1±4.3で有意差を認めなかった。術側ROMは,膝関節屈曲では120.0±8.2°,121.0±8.0°で有意差を認めなかったが,膝関節伸展では-1.4±2.3°,-6.8±4.7°で有意差を認めた(p<0.05)。術側筋力体重比は,膝関節屈曲では35.9±13.6%,26.4±13.9%,膝関節伸展では45.0±19.7%,34.7±13.5%で共に有意差を認めた(p<0.05)。10mMWSは,11.0±3.6秒,12.0±6.6秒で有意差を認めなかった。術前BBSは,48.0±6.4点,47.2±8.6点で有意差を認めず,退院時BBSでは49.7±4.9,44.4±8.9で有意差を認めた(p<0.05)。【考察】結果より,肥満度を示す体格指数であるBMIに差異を認めなかったが,温存群が切除群よりも低年齢であった。松田らは,PCLを温存するCR-TKAは,温存するPCLの機能が保たれていることが前提であり,PCL機能不全も含めて高度の不安定性や変形などの障害がある場合にはPS-TKAが選択される場合が多いと述べている。そのため,切除群の背景として,術前から関節変形や不安定性が重度でありバランスや運動機能が低下していた可能性もある。今回,温存群では膝関節伸展制限の軽減が示唆され,膝関節屈曲・伸展共に有意に高い筋力が認められた。また身体バランスに関して,Bergらは,BBS45点以下では複数回の転倒発生率が約2.7倍であったと報告しており,BBSにおいて,術前では有意な差異を認めなかったが,退院時は温存群が有意に高い値を示した。つまり,温存群は当院CP終了時の術後3wでBBSはカットオフ値を上回り,高い身体バランス能力を早期に獲得できることが示唆された。一方で,切除群は,退院時に温存群と同等の歩行速度で歩行可能であるが,BBSカットオフ値を下回る結果となり,拡大するTKA適応の中にあって,切除群は術後3wで温存群と同等の膝関節屈曲可動域と歩行速度を獲得できるが,退院時には非常に高い転倒リスクがその歩行状態には伏在している可能性がある。したがって,膝関節機能に限局した理学療法のみならず,全身的な視点から多関節運動連鎖に即した理学療法と共に退院後の生活指導や自己管理の必要性が伺える。今後の課題として,術前や退院後の経時的機能推移に加え,長期的な転倒の有無やADLの状況などを追視していきたい。【理学療法学研究としての意義】本研究により,TKAインプラントにおける退院時機能の差異が示唆され,術後理学療法におけるキネマティクス評価やリハビリテーションの一助になり得ると推察される。

著者関連情報
© 2015 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top