理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-B-0748
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慢性腎不全による透析患者の運動療法における足こぎ車椅子走行の追加が歩行と日常生活活動に及ぼす影響
榊原 僚子加藤 宗規
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抄録

【はじめに,目的】維持透析を受ける血液透析(以下,HD)患者は身体機能が低下しているため,習慣的な運動を続けることは困難な場合が多い。また,2012年の透析人口の平均年齢は66.9歳で,年齢層で見ると75~79歳が最も多い。運動療法の報告は日常生活活動(以下,ADL)が障害されてない程度の身体機能を有する患者を対象としており,高齢者で身体機能低下しているHD患者は少ない。また,ADLが障害されているHD患者は,身体機能低下を伴うため通院が困難である。入院療養にて透析治療を行っている患者の場合,外来通院のHD患者よりも高齢かつ低活動性である可能性が高い。したがって,入院中の活動量を引き上げ,廃用による諸機能の低下を予防することが理学療法の目的のひとつに考えられる。足こぎ車椅子は歩行が困難な片麻痺患者の運動療法などにおいて近年注目されてきており,小さな力で駆動でき,心臓や肺,下肢関節にかかる負担が少ないとされている。身体機能低下を来たしている透析患者でも足こぎ車椅子駆動は可能であり,活動量を増やして身体機能維持に寄与できる可能性が考えられる。本研究は,運動療法と足こぎ車椅子を1年間継続し,その効果について検討した。【方法】対象は入院中の透析患者であり,足こぎ車椅子による運動を従来の運動療法に追加した7名(男性2名,女性5名,平均年齢74歳,移動手段は独歩1名,車椅子自立6名,透析歴は平均6年:以下,介入群),および従来からの運動療法のみを行った5名(男性2名,女性3名,平均年齢78歳,移動手段は車椅子自立5名,透析歴は平均10年:以下,対照群)であった。介入群の選択は,足こぎ車椅子運動の希望者とした。従来からの運動療法は,関節可動域維持運動,筋力増強運動,歩行運動を1単位20分であった。足こぎ車椅子はProfhand(TESS社製)を使用し,対象者が可能な速度で15分間行った。運動療法,および足こぎ車椅子による運動は,非透析日に週3日実施した。そして,測定開始時点,および1年後(対照群の1名は9ヶ月後)における6分間歩行,10m歩行,Barthel Index(以下,BI)を測定した。足こぎ車椅子の運動を追加したことによる影響について,開始時の値,および開始時と1年後の差について対照群と介入群の比較をMann-Whitney U test,Wilcoxon signed-rank testを用いて行った。また,両群の性別(男女比)について,χ2検定を用いて検討した。介入群の介入期間における足こぎ車椅子月間平均駆動距離について,Wilcoxon signed-rank testを用いて比較した。統計はSPSS ver.15を用い,有意水準は5%未満とした。【結果】6分間歩行距離の中央値は開始時,開始時と1年後の差の順に,介入群では138.5m,18.0m,対照群では100.0m,-41.6mであった。10m歩行時間の中央値は開始時,開始時と1年後の差の順に,介入群では22.8秒,-3.9秒,対照群では22.7秒,-3.0秒であった。BIの中央値は開始時,開始時と1年後の差の順に,介入群では75,5,対照群では70,-5であった。また,介入群における足こぎ車椅子駆動距離の1ヶ月間の中央値は開始時,1年後の順に,541.0m,574.3mであった。両群における開始時の値の比較について,年齢,性別,透析歴,6分間歩行距離,10m歩行時間,BIのいずれも有意な差を認めなかった。両群における開始時と1年後の差の比較について,6分間歩行距離,およびBIにおいて対象群が有意に良好な値を示した。介入群における足こぎ車椅子の月間平均駆動距離の開始時と1年後の比較では有意な差を認めなかった。【考察】本研究は,足こぎ車椅子介入,非介入群に対し比較検討を行った。開始時と1年後の比較について,有意に低下した項目はなく,歩行やADL機能は両群とも維持できていたと考えられた。しかし,介入群では10m歩行時間が開始時よりも1年後が有意に良好であり,開始時と1年後の差の比較では6分間歩行とBIにおいて有意に介入群が良好であったことから,介入群の方がより歩行やADLが維持できていたと考えられた。今後,症例数を増やして検討すること,長期的な経過を検討することが必要である。介入群における足こぎ車椅子の月間駆動距離には有意な変化は認めなかったが,介入群の患者からは,楽しい,嬉しいなどの感想があり,運動の動機付けにもなっている可能性が考えられた。今後は時間を15分以上に延長するなどの方法により,駆動量を増やしていくことにより,歩行やADLに及ぼす影響を検討する必要が考えられた。【理学療法学研究としての意義】高齢かつ身体機能低下を有し,活動性の低いHD患者の機能維持とADL維持に寄与すると考えられる。

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© 2015 日本理学療法士協会
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