理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-A-0904
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一側の上肢振り子運動による外乱刺激が体幹の姿勢制御に及ぼす影響
左上肢振り子運動と右上肢振り子運動の比較
西田 直弥柿崎 藤泰茂原 亜由美石塚 達也石田 行知
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抄録

【はじめに,目的】我々は前回大会にて,左肩関節屈曲で胸郭形状の左右非対称性が増強し,右肩関節屈曲で左右非対称性が減少することを示した。この上肢の左右機能差の意義として,上肢の役割の一つである姿勢制御が関与すると考えられる。歩行中の上肢振り子運動は体幹の動揺によるバランスの崩れを最小限にするとされ,一般的には左右差がなく左右上肢が担う役割は同等とされている。しかし前回大会の結果より,左右上肢で異なった姿勢制御の役割が存在すると考える。そこで本研究の目的は,立位での左側と右側の各々の上肢振り子運動で生じる胸郭,骨盤の動きと足圧中心点(center of pressure:COP)を測定することで,左右上肢が体幹の姿勢制御に及ぼす影響を検証し,上肢の左右機能差の意義を明らかにすることとした。【方法】対象者は脊柱や四肢に既往がない健常成人男性14名(平均年齢25.5±3.2歳,平均身長171.6±5.0cm,平均体重67.6±10.2kg,右利き12名,左利き2名)とした。課題動作は立位での上肢振り子運動で,上肢を前後方向に振ることとした。上肢振り子運動は肩関節屈伸各30°の幅とし,120回/分の速度のメトロノーム音に合わせて実施した。左右上肢振り子運動の角度と速度に相違が生じないよう動作を習熟させた。上肢振り子運動時の胸郭,骨盤の動きの計測には三次元動作分析システムVICON MX(VICON PEAK社,サンプリング周波数100Hz),COPの計測には床反力計2枚(AMTI社,サンプリング周波数1000Hz)を用いた。マーカー貼付位置は両肩峰,両上腕骨中央,両上腕骨外側上顆,両前腕骨中央,両手関節内外側,両第二中手骨頭,胸骨頚切痕,胸骨剣状突起,第七頸椎棘突起,第十胸椎棘突起,両上前腸骨棘,両上後腸骨棘,両第二中足骨頭,両外果,両踵部とした。算出項目は骨盤回旋角度の大きさと標準偏差(回旋角度のばらつきの指標),胸郭と骨盤の中心点の前後移動の総軌跡長,COPとした。COPは左右足部の中心点の中点に対するCOP位置を算出した。各値は上肢振り子運動5往復分の平均値から算出し,3施行の平均値を解析値とした。更にCOPは安静立位時の3秒間の平均値を算出した。統計学的解析は,左右の上肢振り子運動の比較を正規性があるものには対応のあるt検定,ないものにはWilcoxonの符号付き順位検定を用い,有意水準5%とした。解析には統計ソフトウェアSPSSを使用した。【結果】安静立位でCOPは両足部中心点の中点に対して3.9±8.7mm左に位置した。左側上肢振り子運動(以下,左側)で7.9±16.9mm左に位置し,右側上肢振り子運動(以下,右側)で1.5±10.2mm左に位置した。骨盤回旋の大きさは左側で3.7±1.0°,右側で2.8±0.9°と左側で有意に大きく(p<0.05),標準偏差は左側で1.0±0.3°,右側で0.6±0.2°と右側で有意に小さかった(p<0.01)。胸郭中心点の総軌跡長は左側で161.5±24.4mm,右側で146.5±11.3mmと左側で有意に大きかった(p<0.05)。骨盤中心点の総軌跡長は左側で132.8±51.6mm,右側で106.6±16.6mmと左側で有意に大きかった(p<0.01)。【考察】左上肢振り子運動では左下肢に荷重する傾向があり,歩行に当てはめると,先行研究で支持脚とされる左下肢での荷重では支持性が高くなるが,推進性は不十分になると予測される。そのため下肢の推進性を補うために体幹の移動性を高めるシステムが働き,骨盤と胸郭の前後移動や骨盤回旋角度が大きくなったと考えられる。右上肢振り子運動では安静時にみられる左下肢荷重から右下肢の荷重が増加する傾向があり,機能脚とされる右下肢での荷重では支持性が不十分になることが予測される。そのため下肢の支持性を補うために体幹の安定性を高めるシステムが働き,骨盤と胸郭の前後移動が小さくなり,骨盤回旋が律動的になったと考えられる。また,今回の検討結果に対し利き手の影響もあるかと考えたが,左利き例も右利き例と同様の結果を示しているため,利き手の影響ではなく左右上肢の特性を表していると言える。これらの現象は,左上肢振り子運動では胸郭形状の非対称性を増強させて移動性を高め,右上肢振り子運動では胸郭形状の非対称性を軽減させて安定性を高めているものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】左右上肢振り子運動で体幹の姿勢制御が異なり,右上肢では体幹を安定させることで右下肢に荷重し,左上肢では移動を大きくさせることで左下肢に荷重することが示唆され,上肢の左右機能差の意義が明らかになった。

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© 2015 日本理学療法士協会
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