理学療法学Supplement
Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-A-1082
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ロコモティブシンドロームと身体組成の関係
高野 直哉
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抄録

【はじめに,目的】厚生労働省は国民の健康寿命の延伸を掲げており,生活習慣病の予防対策は重要な課題である。現在のリハビリは後療法が中心で,超高齢社会となった我が国においては,疾病や障害を予防する「予防理学療法学」の確立が求められている。予防理学療法の大きな柱の一つとして,運動器疾患を予防するロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)に対する理学療法が重要と言われている。2007年に日本整形外科学会が「運動器の障害による要介護の状態や要介護リスクの高い状態」をロコモと提唱し,推定4700万人いるとされている。原因として加齢による運動器機能不全や筋量減少(サルコぺニア),肥満(メタボ)などの問題があると言われている。ロコモの早期発見のためにスクリーニングテストとして使用されるロコチェックは,7つの質問のうち1項目でも該当するとロコモの危険性ありとされており,先行研究によると,ロコチェックの該当数が増えるにつれ介護度は増える傾向にあると報告がある。しかし,該当項目数の増加に繋がる要因についての研究は散見する程度である。本研究では,ロコチェック該当項目数と身体組成の関係を調査することを目的とする。【方法】対象は平成26年9月から当院の健康教室を利用された高齢者,43名(男性13名,女性30名,平均年齢67.8±10.3歳)で顕著な認知機能低下,重度な神経学的,整形外科的疾患を有する者やペースメーカー等の体内埋め込み型医用電子機器使用者は除外した。全ての対象者に日本整形外科学会ロコチェック(7項目)を自主回答制にて実施。その後,高精度筋量計Physion MD(株式会社日本シューター)により仰臥位にて生体電気インピーダンス法(BIA)を用いて身体組成の計測を行い,体重支持指数(以下,WBI),骨格筋率(以下,%MV)や骨格筋量指数(以下,SMI),を算出した。統計学的分析は説明変数を体重,%MV,SMI,脂肪率,WBI(左右平均),大腿四頭筋量(左右平均),体幹筋量,目的変数をロコチェック該当項目数とした重回帰分析(変数減少法)を行った。統計ソフトはエクセル統計(Statcel 3)を用いて有意水準は5%未満とした。【結果】ロコチェックの結果は該当項目数0が10名(23%),1が7名(16%),2が12名(28%),3が6名(14%),4が3名(7%),5が1名(2%),6,7は2名(5%)という結果であった。重回帰分析(変数減少法)の結果,大腿四頭筋量,SMI,脂肪率,WBIが有意差をもって選択された(P=0.000113)。自由度修正済み決定係数は0.39であった。【考察】今回の結果より,ロコチェック該当項目数の増加に影響するものとして大腿四頭筋量やSMIのように筋量に関わる因子が示唆された。SMIはサルコぺニア診断においても重要な評価項目の一つで,43名のSMI平均は7.46±1.27Kg/m2(男性8.56±1.07,女性6.99±1.04)であった。その中で女性3名が日本人のカットオフ値を下回っていた。本研究では,%MVや体幹筋量の低下より大腿四頭筋量低下の影響が大きい結果となった。大腿四頭筋量は24歳をピークに,年齢とともに低下し,50歳以降に減少が著しいとの報告がある。下肢の筋量減少は移動能力やバランス機能の低下に繋がり,ロコチェック該当項目数の増加に繋がると考える。また,WBIは大腿四頭筋等尺性最大筋力/体重で算出され,重力に抗してどれだけの運動機能を有しているかを測定する体力指数である。大腿四頭筋量低下は,WBIを低値にする要因になる。また,脂肪率の増加も該当項目数の増加に繋がることが示唆された。これは加齢に伴い筋肉から脂肪に変性する異所性脂肪の増加やメタボなどの内臓性脂肪の増加が,筋肉量の減少や体重の増加に繋がり,WBI低値に影響したと考える。これらの要因が運動機能の低下に繋がり,該当項目数増加に繋がる一要因になったと考える。本研究より,ロコモ対策には,抗重力筋である大腿四頭筋の筋力低下防止と体重コントロールを行い,自分の体重に見合った下肢の筋力を維持すること,適切な運動習慣や栄養管理が重要な要素であると考える。

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© 2015 日本理学療法士協会
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