理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-MT-06-2
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口述演題
大腿骨近位部骨折患者の回復期リハビリテーション病棟転入時評価による退院時歩行自立因子の検討
術後1月前後で転入院した症例を対象に
只石 朋仁
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抄録

【はじめに,目的】大腿骨近位部骨折術後の歩行予後は,受傷前の生活状況や認知機能,術後早期のパフォーマンス評価から検討された報告が多い。大腿骨近位部骨折患者の中には早期に歩行を再獲得し急性期病院から自宅退院される症例も多いが,早期の改善が困難な症例では回復期リハビリテーション病棟(以下回復期リハ病棟)へ転入院される。しかし,回復期リハ病棟転入時の評価から歩行予後を検討している報告は少ない。今回,当院回復期リハ病棟において転入時の評価から歩行自立因子を検討した。【方法】対象は2012年1月1日から2015年9月30日の期間で当院回復期リハ病棟を退院した65歳以上の症例で,術後3-6週(15-42日)で回復期リハ病棟へ転入院され,受傷以前に屋内歩行が自立し当院入院日数が100日未満であった68例(平均年齢84.9±7.3歳,男性9例,女性59例)とした。回復期リハ病棟入退院時のFIM運動項目,認知項目,HDS-R,FBS(Functional Balance Scale)を調査した退院時にFIM歩行6点以上を歩行群,5点以下を非歩行群とし,年齢,手術から転院までの日数,回復期リハ病棟入院日数,FIM運動項目,認知項目,HDS-R,FBSを比較した。退院時の歩行可否を従属変数とした二項ロジスティック回帰分析を実施し,回帰モデルの因子に選択された項目において,cut off値をROC曲線から算出した。【結果】2群間比較では入退院時のFIM運動項目,認知項目,HDS-R,FBSに有意差を認めた。回帰モデルの因子に選択された項目は,入院時HDS-RとFBSであった。入院時HDS-Rの曲線下面積(AUC)は0.723(95%CI;0.586-0.859),cut off値は19点,感度88.1%,特異度61.5%であった。入院時FBSではAUCは0.872(95%CI;0.786-0.959),cut off値は30点,感度78.6%,特異度88.5%であった。退院時に歩行が自立した症例は,両因子とも陽性であった29例中28例(96.5%),FBSのみ陽性であった7例中5例(71.4%),HDS-Rのみ陽性であった18例中9例(50%),両因子とも陰性であった14例中0例(0%)であった。【結論】術後1月程度で回復期リハ病棟に転入院された大腿骨近位部骨折患者の歩行再獲得を予測するには,転入時のFBSとHDS-Rの評価が有用であることが示唆された。FBSはbergにより発案された立位バランスのパフォーマンス評価法であり歩行自立の判断基準として利用されている。歩行予後予測因子としてFBSを使用した報告はなく,今回算出されたcut off値は根拠のある目標設定の一助となると考える。加えて認知症の有無だけでなく,HDS-Rを複合することでより精度の高い予測が可能となり,歩行可否に合わせたプログラム立案や遅延なく生活プランの提案が行えると考える。今回対象とした期間外に転入院される症例での適用には注意が必要であるが,回復期リハ病棟の下肢骨折受け入れ期限は術後60日であり,今回の設定期間に多くの症例を受けていると思われ,臨床上の意義は高いものと考える。

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