理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-KS-04-3
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上殿神経が大殿筋を支配する例における詳細な神経の走行について
荒川 高光
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キーワード: 遺体, 解剖学, 歩行
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抄録

【はじめに,目的】上殿神経は通常第4と第5腰神経,第1仙骨神経から起こる仙骨神経叢の一枝で,上殿動静脈とともに大坐骨孔の梨状筋上孔から出て,中殿筋と小殿筋の間を走行しながら両筋へと筋枝を与え,さらに前方へと回って大腿筋膜張筋を支配する神経である。このような走行のために髄内釘の手術の際に上殿神経が傷つけられる危険性が指摘されている(Ozsoy, et al., 2007;Lowe, et al., 2012)。また上殿神経には殿部の皮膚や殿筋膜への知覚枝が存在することも報告されている(Akita, et al., 1992)。上殿神経の詳細な解剖学的情報は股関節リハビリテーションにおいても重要である。今回,梨状筋上孔を出た上殿神経が大殿筋への筋枝を持つ例に遭遇したため,詳細に観察することとした。【方法】所属大学医学部の解剖学実習用遺体1体(女性)を用いた。殿部や骨盤内に外傷や手術の既往はなかった。皮膚剥離後,大殿筋を反転する際に,梨状筋上孔から大殿筋に至る筋枝に気付き,全て色糸でマークして,動静脈とともに切断して大殿筋を反転した。続いて中殿筋を反転し,小殿筋との間の上殿神経を剖出し,大腿筋膜張筋までその走行を確認した。所見をスケッチとデジタル画像にて記録した。【結果】梨状筋上孔からは上殿神経の他に,後大腿皮神経から分かれた下殿皮神経と会陰枝,総腓骨神経が出ていた。上殿神経は梨状筋上孔を出た後に,中殿筋の深層へと走行する手前で大殿筋に至る筋枝を3本出していることが確認できた。大殿筋の最も頭側の筋束(腸骨稜起始)へと筋枝を送り,仙骨から起始する筋束にも筋枝を出した。本筋枝が大殿筋内を通り抜けて後方へ出て知覚枝になる様子は現在のところ発見できていない。上殿神経は大殿筋へ筋枝を出した後,中殿筋と小殿筋の間を走行しながら両筋に筋枝を出し,大腿筋膜張筋へ達した。大腿筋膜張筋への筋枝が一部本筋を貫いて筋膜へと出ていた。梨状筋下孔からは脛骨神経と下殿神経が出ていた。下殿神経は大殿筋の下方の筋束へと筋枝を出していた。後大腿皮神経の残りの枝と陰部神経は未確認である。【結論】上殿神経が大殿筋を支配する例の報告は現在のところ存在せず,本例は臨床的にも非常に貴重な例である。すなわち,上殿神経を傷つけるリスクのある手術を行った際には,ごく稀ではあるが,大殿筋の支配神経を傷つけている可能性も否定できないのである。さらには,上殿神経が傷つけられると,大転子付近の筋膜や皮膚への知覚が障害される可能性もある。術後のフォローアップの際に理学療法士が知っておかねばならない詳細な解剖学的情報の1つと位置づけられる。今後本例の上殿神経などの起始分節を確かめるとともに詳細に解析を加えていきたい。

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© 2016 日本理学療法士協会
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