理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-KS-31-6
会議情報

ポスター
歩行中の注意機能を評価するProbe Reaction Time計測スマートフォンアプリケーションの開発
鈴木 智高平石 雅裕東 登志夫菅原 憲一
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに,目的】運動機能のみならず注意機能の低下は転倒リスクを増大させる(Holtzer, et al., 2007)。Probe reaction time(PRT)は二重課題下の注意機能を評価することができ,歩行能力評価における有用性が示唆されている(Regnaux, et al., 2005)。しかし,PRT計測には特殊な機器が必要であり,また,トレッドミル上での歩行に制約されることが多い。そこで,普及著しいスマートフォンで歩行中のPRTを計測できるアプリケーションを開発し,その正確度を検証した。本PRTアプリは,1)歩行能力と注意機能の評価,2)二重課題下の注意負荷量評価,3)リハビリテーションの介入効果判定を簡便に行えるツールである。【方法】端末による振動刺激を反応合図,端末片手把持中の手関節背屈運動を反応課題としてアプリを設計し,この時間差をPRTとした。さらに,歩行中のPRT課題は歩行速度に干渉すると想定されるため,PRTと同時に歩行時間を計測する機能を設けた。絶対的基準として3軸加速度・角速度センサ(サンプリング周波数1000Hz)を端末背面に固定し,同時計測により正確度を検証した。機器の正確度に個人特性が及ぼす影響は少ないため,健常成人2名で検証を実施した,また,汎用性を考慮しサンプリング周波数の異なる新旧2機種,Nexus 6(約226Hz)とGalaxy SII(約101Hz)を検証に用いた。80m歩行中にPRT10試行と歩行時間を計測し,30セット繰り返した。PRT100試行,歩行時間30セットを解析対象とし,参加者,機種各々において方法間(アプリ-外部センサ)の絶対誤差算出のためBland-Altman解析を行った。【結果】両参加者のPRTに関して,Nexusの偏りおよび95%信頼区間は16.8(16.5―17.0),17.4(17.0―17.7)ms,精密度は1.7,2.7ms,PRTの平均は222,261msであった。Galaxyでは偏り20.6(20.1―21.0),20.6(20.2―21.0)ms,精密度5.2,4.5ms,平均213,235msであった。歩行時間に関して,Nexusは偏り-3.5(-2.7―-4.2),-3.3(-2.6―-4.1)ms,精密度3.8,4.0ms,平均60.6,60.4sであった。Galaxyは偏り-9.9(-9.1―-10.7),-11.9(-11.1―-12.7)ms,精密度4.6,4.6ms,平均59.3,60.7sであった。【結論】PRTの正確度に関して,各機種で一定の偏り(系統誤差)が認められた。これはアプリ側の振動制御と実際に端末が振動するまでの遅延であろう。%誤差(2×精密度/平均)は1.5―4.9%と十分に低値であったが,偏りと精密度はサンプリング周波数に依存しているようだ。歩行時間に関して,系統誤差は極低値であり,%誤差が0.0%であることから,殆ど誤差はない。以上のことから,端末のセンサは相当に正確であり,本アプリのPRT計測は十分な正確度であるといえる。ただし,現状のデータでは端末の性能に注意すべきだろう。課題中の注意機能を評価する本アプリは,使用するひと,環境を問わず,課題設定も比較的自由であるため,転倒予防,認知症予防を主とした幅広い臨床応用が期待される。

著者関連情報
© 2016 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top