理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-NV-13-5
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口述演題
発症早期の脳血管障害患者における主観的垂直認知の特徴
Pusher現象の有無による垂直パラメータの差異
深田 和浩網本 和藤野 雄次井上 真秀播本 真美子蓮田 有莉高橋 洋介角屋 亜紀三浦 孝平牧田 茂高橋 秀寿
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抄録

【はじめに,目的】Pusher現象例では,主観的身体垂直(SPV)や主観的視覚垂直(SVV)の方向性を示す平均偏倚量が実際の垂直位から大きく逸脱することが示されている。一方,右半球損傷例において,SVVの動揺性を示す標準偏差値の大きさが姿勢バランスの低下と関連があることも報告されている。これは,動揺性すなわち垂直判断の不安定さが,身体の垂直定位能力を低下させる可能性を示唆するものであり,特異的な姿勢障害を呈するPusher現象例では傾斜方向性だけでなく,動揺性の垂直認知の特徴を明らかにすることは重要である。本研究の目的はPusher現象の有無による垂直パラメータの差異を明らかにすることとした。【方法】対象は初発の脳血管障害患者25例(年齢67.5±9.7歳(mean±SD),測定病日15.5±7.8日)とした。Pusher現象の判定には,SCPを用い各下位項目>0点をPusher現象あり(Pusher群)とし,Pusher現象のない群は,左脳損傷群(LBD群)と右脳損傷群(RBD群)に分類した。尚,参考値として健常群(年齢67.0±5.2歳)を評価し,統計解析には含めなかった。SVVの測定は,パソコンで測定可能なプログラムを用いた。検者は視覚指標を水平位から左または右回りに5°/秒の速さで回転させ,対象者が垂直だと判断した時点と垂直位からの偏倚を記録した。SPVの測定は,垂直認知測定機器を用いた。2名の検者が座面を左右に15°と20°傾けた位置から1.5°/秒の速さで回転させ,対象者が垂直だと判断した時点の座面の角度を記録した。開眼条件をSPV-EO,閉眼条件をSPVとした。手順はABBABAAB法を用い,8回の平均値を傾斜方向性,標準偏差値を動揺性とした。角度は垂直を0°,非麻痺側への傾きを+,麻痺側への傾きを-とし,健常者は時計回りを+,反時計回りを-とした。統計手法には一元配置分散分析と多重比較検定を用い,各群の傾斜方向性と動揺性を比較した。【結果】健常群(n=17),LBD群(n=9),RBD群(n=8),Pusher群(n=8,SCP 3.3±0.8点,左半側空間無視:有5例,無3例)において傾斜方向性では,SVVは-0.6°,-1.2°,-0.5°,-0.1°,SPV-EOは0.4°,-0.9°,0.3°,-0.2°,SPVは-0.2°,-0.4°,-0.1°,-1.6°であり有意差はなかった。動揺性では,SVVは1.8,1.1,1.2,6.4,SPV-EOは3.0,2.8,2.7,6.3,SPVは3.2,3.4,3.7,6.1でありそれぞれ主効果を認めた(p<0.05)。多重比較検定の結果,Pusher群の動揺性は他の群よりも全てのパラメータで有意に高値を示した(p<0.05)。【結論】本研究から,脳血管障害患者の傾斜方向性は,Pusher現象の有無に関わらず垂直位である一方,動揺性は,Pusher現象により全てのパラメータに差が生じることが示された。このことは,Pusher現象の生起要因の一つとして視覚や身体の垂直定位の動揺性が関与する可能性を示唆し,障害特性に応じた検証が必要と考える。今後は,Pusher現象の重症度や半側空間無視の有無を考慮した検討を進めていく。

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