理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-NV-28-3
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脳卒中後片麻痺者における歩行時Synergyの混合(Merging)の運動学的意義
―非負値行列因子分解を用いた縦断的検討―
橋口 優大畑 光司北谷 亮輔脇田 正徳前田 絢香川崎 詩歩未山田 重人
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抄録

【はじめに,目的】Synergyとは中枢神経が四肢の複雑な運動をコントロールするために,複数の筋を同期させる活動を指す。近年,非負値行列因子分解(以下NNMF)を用いて計算論を基に歩行時のSynergyを定量化する報告が成されており,脳卒中後片麻痺者ではSynergy数と歩行速度との関係(Clark, 2010)が報告されている。また脳卒中後片麻痺者におけるSynergyの特徴として,複数のSynergyが1つのSynergyへと混合する変化(以下Merging)が報告されている(Cheung, 2012)。我々は回復期脳卒中後片麻痺者の歩行時のSynergyに関して,縦断的にMergingと臨床指標との関係を検討し,筋力の回復が得られない場合にMergingが生じ易いことを報告した。この結果より,Mergingは筋力回復の制限に対する機能的代償であると考えられるが,Mergingによる歩行時の運動学的な変化については明確となっていない。そこで本研究はMergingと歩行時の運動学的指標の変化との関連について検討した。【方法】脳卒中後片麻痺者13名において,1ヶ月の間隔を設けて2回の歩行計測を行った。Delsys社製Trigno Wireless SystemおよびVICON社製3次元動作解析装置を用いて,歩行時の筋活動と運動学的指標および歩行速度を計測した。筋活動は麻痺側下肢8筋にて測定し,NNMFによってSynergyの活動波形と各筋への重みづけを抽出した。さらに先行研究を基にSynergyのMergingが生じた程度を示すMerging Index(MI)を算出した。動作解析装置で得られた股関節・膝関節・足関節の角度データは,1歩行周期における最大屈曲(背屈)角度と最大伸展(底屈)角度の差を算出して運動範囲(以下Range)を求め,1回目と2回目での変化率(以下ΔRange)を算出した。統計解析は対応のあるt検定およびWilcoxonの符号付順位和検定を用いて,1ヶ月前後での歩行速度,Synergy数および各関節のRangeを比較した。また,MIと各関節のΔRangeとの間のPearsonの相関係数を算出した。【結果】1ヶ月前後において,歩行速度は有意に改善していた(p<0.01)が,Mergingは61.5%(8名)の患者で確認された。一方,全体のSynergy数に一定の傾向は見られなかった。各関節のRangeは,股関節および膝関節は増加傾向,足関節では減少傾向を示した。Mergingと各関節のRangeの縦断的変化との関係は,足関節においてのみΔRangeとMIとの間に負の相関関係が認められた(r=-0.59,p<0.05)。【結論】歩行速度の回復が見られても,回復期脳卒中後片麻痺者では歩行時のSynergyのMergingが生じていた。Mergingは歩行時の足関節における運動範囲の減少に関連して生じており,歩行速度の改善に要する運動学的条件を満たすために,Synergyを混合することで足関節の運動範囲を減少させるという中枢神経系の機能的代償方策を反映していると考えられた。本研究により,Mergingは機能回復に伴う中枢神経系の振る舞いを示す変化として重要であることが示唆された。

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