理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-HT-04-4
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口述演題
Axillary web syndromeに対する理学療法の介入手段ならびに治療効果の検討
小野部 純今村 幸恵神保 和美山本 優一
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抄録

【はじめに,目的】Axillary web syndrome(以下AWS)は,乳がんの術後にみられ,腋窩から上腕内側または前腕にかけて皮下に索状物(cord)がみられ,強い疼痛と肩関節の可動域制限を呈する病態を指す。これは,手術による外科的侵襲によりリンパ管または表在静脈系の凝固能が亢進したために管内に血栓が生じ,さらに脈管の線維化が生じたためとされており,Mondor病の一種とも考えられている。AWSの多くは術後8週以内に発症し,通常2~3ヶ月程度で自然回復されるとされているが,長期化するケースも報告されている。また,有効な治療手段は確立されておらず,各治療施設によって異なる対応がとられている可能性が高い。そこで本研究では,文献検索によりAWSの治療介入方法の種類とその効果について抽出することとした。【方法】対象とする資料収集は2015年10月時点において,データベースとする医中誌データベースおよびMEDLINEより提供されている医中誌WebならびにPubMedを用いて行った。両データベースとも使用したキーワードは「Axillary web syndrome」とし,評価論文の種類は原著論文,症例報告とし,Reviewや会議録は除外した。収集した論文の選定は,テーマ,アブストラクトを確認し,以下の基準で選定を行った。選定基準として,①乳がん患者の術後を対象としていること,②理学療法の介入手段が記載されていること,とした。【結果】医中誌Webによる検索の結果,10編が該当し,その中から会議録を除外した結果,2編となった。次に,PubMedによる検索の結果32編が該当し,26編が選定基準に該当した。さらに内容を確認した結果,AWSに対する治療方法が記載されていたのは3編のみであった。該当した論文から,効果があった治療手技として挙げられていたのは,関節可動域訓練,ストレッチ,モビライゼーション,軟部組織への徒手療法,温熱療法,コッドマン体操であった。その効果としては,肩関節可動域の改善と疼痛の軽減が報告されていた。【結論】本結果から,AWSに対する理学療法手技を抽出することは出来た。しかし,論文数や対象者数が少なく,ランダム化比較試験は含まれておらず,効果的な治療手技が抽出できたとは言い難い。さらに,関節可動域訓練,ストレッチ,モビライゼーション,徒手療法のそれぞれの手技の違いが明確ではなく,ストレッチに関しても皮膚,筋,codeのどれを対照としてアプローチしているのかも一定ではなかった。AWSは,強い痛みと可動域制限から,著しくQOLを低下させてしまう。Torresらは,AWSの経過は一定期間で自然に収束する症状として見過ごされがちであるが,その病態を短縮できる治療方法の研究が必要であると提言している。本研究からは,現在行われている治療方法について抽出できたが,効果検証までには至らなかった。今後,増加するであろう乳がん術後の後遺症の一つとしてとらえ,有効な介入方法を確立していく必要があると考える。

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© 2016 日本理学療法士協会
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