主催: 日本理学療法士協会
【はじめに,目的】老人保健施設などでの脳卒中片麻痺患者の利用者は,日常生活では転倒などを回避するため車椅子を使用している場合が多く,重要な移動手段とされている。車椅子操作と運動機能に関する先行研究では,車椅子自走を可能にする要因として立位バランスと腹筋群の筋力が関与していると報告されているが,下肢の各関節の運動機能と車椅子の操作状況についての報告は少ない。本研究では,脳卒中片麻痺患者における車椅子による移動状況とSIASによる運動状況の相違について明らかにし,脳卒中片麻痺患者の車椅子操作能力の指標の一部とすることを目的とした。【方法】対象はA県内の介護老人保健施設の利用者14名とした。方法は,下肢運動機能検査および面接方式による車椅子操作状況の聞き取り調査を実施した。運動機能検査はStroke Impairment Assessment Set(以下SIAS)の基準を採用し,6段階評価(5=正常,4=可能だが動かしづらい,3=かろうじて可能,2=わずかに可能,1=筋収縮のみ,0=完全麻痺)とした。聞き取り調査は,日常の車椅子操作状況を3段階評価(2=屋内外自走,1=屋内のみ自走,0=自走不可)し,得点化した。統計処理はクラスカル・ウォリス検定による車椅子操作状況による下肢の各関節の運動機能の比較及びスピアマンの順位相関分析による車椅子操作状況と下肢の運動機能との関係について検討した。統計ソフトはSPSSstatistics20を使用し,有意率は5%未満とした。【結果】調査を実施した対象者は14名であった。日常車椅子で移動している対象者は14名中12名(男性6名,女性6名)年齢78.8±7.9歳であった。麻痺側は右麻痺5名,左麻痺7名,車椅子操作レベルは屋内外自走5名,屋内のみ自走2名,自走不可5名であった。SIASの得点の最頻値は股関節,膝関節,足関節共に0点で,車椅子自走可能者では股関節3.1±1.9点,膝関節3.0±1.7点,足関節2.9±1.7点であり,一部可能者は股関節3.0±1.4点,膝関節3.0±1.4点,足関節2.5±0.7点であり,完全介助者では股関節0.8±0.8点,膝関節0.4±0.5点,足関節0.6±0.9点であった。車椅子操作3群の比較では股関節,膝関節,足関節全てにおいて有意差は認められなかった。そして車椅子操作レベルと各関節機能との関係では,股関節(ρ=0.580),膝関節(ρ=0.640),足関節(ρ=0.625)には有意な正の相関が認められた(p<0.05)。【結論】車椅子操作3群の比較では,下肢の各関節間においてSIASによる運動機能では大きな差はみられなかったが,運動機能と車椅子操作能力の間では正の相関がみられた。先行研究によると,高齢者の車椅子駆動は体幹前傾の動きが少なく体幹の安定に関係する下肢筋力の活動が少ないと言われているため,有意差がみられるほどではなかった。だが,下肢の運動機能レベルが高いほど車椅子駆動能力も高く,体幹前傾の際に下肢の筋活動は少しではあるが体幹固定に関与する量が増加していることが考えられる。