抄録
【目的】フレイルは可逆性のある状態であると定義されているが,この可逆性を明確に捉えた報告は少なく,不明な点も数多く残されている。本研究では,地域在住高齢者を対象とした4年間のパネルデータによって,ベースライン時にフレイルと判定された高齢者のその後の状態変化を明確にすることと,改善および悪化に関わる因子を検討することを目的とした。【方法】対象は要介護認定を受けていない地域在住高齢者とし,2010年3月にベースライン調査として6021名の高齢者に対して郵送による悉皆調査を実施し,4881名(81.1%)より回収を行った。分析に使用する変数に欠損がなかった4537名(75.4%)の中でフレイルに該当した539名が追跡対象者となり,その後4年間の追跡が可能であった470名が本研究の分析対象となった(追跡率87.2%)。なお,追跡困難であった69名は転出者および2回目の調査票未提出者であった。フレイルの判定にはフレイル・インデックス(①体重減少,②活動度減少,③活力減少,④自覚的歩行速度遅延,⑤記憶力低下)を用い,5項目中3項目以上該当でフレイル,1~2項目該当でプレフレイル,そして0項目でロバスト(健常)と定義した。ベースラインの調査としては,フレイルの調査に加えて,基本属性,疾病罹患,服薬,運動習慣,食習慣,社会参加状況,経済状況などを調査した。4年間の追跡期間中に発生した要介護認定や死亡,さらに4年後のフレイル判定をアウトカム指標とした。統計解析としては,4年後の状態(改善,不変,悪化のカテゴリー変数)を従属変数に,運動習慣,食習慣,社会参加のそれぞれを説明変数に,さらに基本属性,疾病,服薬状況,経済状況等を調整変数に投入した多項ロジスティック回帰分析を実施した。【結果】470名(年齢77.5±7.2歳,女性率52.1%)の分析対象者の4年後の状態は,ロバスト8名(1.7%),プレフレイル140名(29.8%),フレイル83名(17.7%),要介護139名(29.6%),死亡100名(21.3%)であった。多項ロジスティック回帰分析の結果,悪化(要介護認定および死亡)に関連していたのは社会参加(調整済みオッズ比(OR)=0.46)であり,改善(ロバストおよびプレフレイル)に関連していたのは中強度の運動習慣(OR=2.91)と乳製品の摂取(OR=2.12)であった。【結論】約5割のフレイル該当者が4年後に状態は悪化していたが,一方で約3割がプレフレイルおよびロバストへ改善していた。悪化に関連していた因子は社会参加であり,改善には中強度の運動習慣と乳製品の摂取が関連していた。これら関連要因は可逆的因子であったことから,介入の余地があると考えられた。