理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-MT-13-1
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口述演題
患者立脚肩関節評価法(shoulder36)を用いた有痛性肩関節疾患患者の心理的要因の検討
富山 農平田 淳也林 克彦
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抄録

【はじめに,目的】

痛みの定義について,国際疼痛学会(1994)は「不快な感覚および情動体験」と定義しており,痛みを身体面だけでなく心理面からも捉える必要があることを示唆している。これまで,疼痛との関連が検討されてきた心因性要因は抑うつや不安といった情動面が中心であったが,近年では自己効力感や破局的思考といった思考過程との関連が注目されている。器質的な原因が注目されやすい肩関節疾患の痛みについても,このような心理的要因が関連しており,QOLにまで影響していることが報告されるようになってきた。肩関節周囲炎に代表される有痛性肩関節疾患では,不動による筋性防御姿勢が起因となり拘縮が進行する。従来,急性期からの積極的な運動療法は推奨されておらず,NSAIDsの使用や疼痛に応じた筋緊張コントロール,日常生活動作指導を行うのが一般的と言われる。しかし,運動器リハビリテーション料算定期限が150日であることを考えると,早期より心理的要因に対するアプローチを開始し,治療を促進させることは不可欠であると考える。そこで本研究は,Shoulder36(Sh36)に自己効力感と破局的思考が影響しているかを検討した。

【方法】

対象は外来通院中の有痛性肩関節疾患患者64名(男性20名,女性44名,平均年齢61.9±12.3歳)であった。疼痛強度としてnumerical rating scale(NRS),肩関節機能評価として患者立脚肩関節評価法Sh36,自己効力感としてpain self efficacy questionnaire(PSEQ),破局的思考としてpain catastrophizing scale(PCS)を用いて測定した。Sh36の各ドメインとNRS,PSEQ,PCSとの相関はSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準を5%とした。

【結果】

Sh36とNRSについては,疼痛(rs=0.394),筋力(rs=0.246),日常生活機能(rs=0.304)において有意な相関関係が認められた。Sh36とPSEQについては,疼痛(rs=0.517),可動域(rs=0.453),筋力(r=0.434),健康感(r=0.638),日常生活機能(rs=0.447),スポーツ(rs=0.35)の全ての項目において有意な相関関係が認められた。Sh36とPCSについては,健康観(rs=0.328)において有意な相関関係が認められた。

【結論】

Sh36にはPCSよりもPSEQの方が多くのドメインと相関しており,かつ相関係数が高かった。この結果から,主観的な肩関節機能には,心理的要因として破局的思考より疼痛自己効力感が影響していることが示唆された。有痛性肩関節疾患では発症直後の急性炎症期から持続して不動に陥った場合,二次的な拘縮を来たす。疼痛自己効力感が高ければ,日常生活動作上での上肢使用頻度は維持され,低ければ不動から筋骨格系への影響は避けられない。また,疼痛強度と比較しPSEQに有意な相関関係があったことから,有痛性肩関節疾患の治療においては,器質的な痛み治療のみならず自己効力感向上を図る為,早期からセルフエクササイズ指導や日常生活動作指導などのコーチングが重要であると考える。

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© 2017 日本理学療法士協会
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