理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-MT-13-2
会議情報

口述演題
重度の患肢機能障害とADL障害を呈するCRPS症例に対する理学療法介入の経験―多角的評価に基づいた介入の選択―
壬生 彰
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに,目的】

複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome:CRPS)に対する理学療法として,中枢神経系の機能異常に対する介入である鏡療法や段階的運動イメージプログラムなどが,疼痛の軽減および機能の改善に寄与することが認められており,推奨されている。しかし,効果が十分でない症例も報告されている。今回,鏡療法を実施したが,十分な効果が認められなかったCRPS症例に対して,運動療法を中心とした介入に変更することで日常生活動作(Activity of daily living:ADL)およびCRPS症状の改善を認めた経過を報告する。

【方法】

症例は30歳代の女性で,X-2年5月,自転車走行中にバイクと衝突し転倒した。直後より左上肢の痛みがあったが,明らかな骨折や神経損傷はなかった。複数の医療機関において加療を受けるも症状改善せず,X-2年2月にCRPSと診断され,X年6月に当院を紹介受診となった。主訴は左上肢痛と歩行困難であり,杖歩行にて来院した。左前腕より遠位および右下腿より遠位にNumerical Rating Scale(NRS)で6から9の痛みを訴え,著明な浮腫を認めた。アロディニアにより患部への接触は非常に困難であった。患肢,右肩関節,頸部の関節可動域制限があり,四肢体幹の運動は緩慢であった。また,The Bath CRPS Body Perception Disturbance Scale(BPDS)は37/57であり,患肢の身体知覚異常を認めた。疼痛生活障害尺度(Pain Disability Assessment Scale:PDAS)は47/60であった。精神心理面はPain Catastrophizing Scale(PCS)が48/52,Pain Self-Efficacy Questionnaire(PSEQ)が4/60であった。初期評価より,患肢の疼痛軽減と機能改善を目的として鏡療法と触覚識別課題を開始した。1か月間の介入を行ったが,疼痛増強や不快感を訴え続けたため,これらの介入のみでは改善が期待できないと判断し,ADLの改善と活動量増加を目標に患部外の運動療法を中心とした介入へと変更した。具体的かつ段階的な目標設定と達成度のモニタリングを行い,基本的動作能力の改善と活動量増加を図った。来院時には,健肢および体幹の積極的な運動を行い,運動による機能の改善が目標とする動作の改善につながることを実感させるように心がけた。患肢に対しては,自宅で鏡療法を継続させ,患肢および鏡像肢の知覚の変化に合わせて課題を調整した。

【結果】

理学療法開始より9か月時点での評価では,独歩が可能となり,ADLと精神心理面の改善を認めた(PDAS:26,PCS:36,PSEQ:16)。NRSに著変はないものの,アロディニアの軽減,身体知覚の改善などCRPS症状の改善も認めた(BPDS:27)。

【結論】

本症例では,CRPSの理学療法として推奨されている鏡療法よりも基本的動作能力の改善と活動量増加を図った運動療法が奏功した。初期評価時に自己効力感が低い症例に対しては,鏡療法といった即時的な効果を実感することが困難である介入よりも,日常生活動作の改善に直接つなげる運動療法が有効かもしれない。

著者関連情報
© 2017 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top