理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-MT-01-2
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地域在住中・高齢者の関節運動覚と機能・バランス能力の関連性
水江 猟佐々木 賢太郎坂本 恭一九木 佳苗岩上 倫太郎境 萌香岡田 智成
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抄録

【はじめに,目的】

固有感覚は運動技能の向上や動作の再獲得の観点において,リハビリテーション分野では重要な機能の1つである。しかし,これらを定量的に評価する装置は少なく,特に関節運動覚の評価では他動運動を一定の角速度で動かす装置が必要であり,大がかりな物となってしまう。このような背景から,我々は独自に運搬可能な装置を作成し,健常大学生を対象に計測信頼性を確認することができた。次に,本装置を地域へ持参し,地域在住高齢者を対象として関節運動覚を計測した。本研究では中・高齢者の関節運動覚とその他の身体機能,バランス能力との関連性を明らかにすることを目的とした。

【方法】

対象は60歳以上の地域在住中・高齢者101人(男27人,女74人,年齢72.7±6.9歳,BMI22.7±4.0 kg/m2)であった。全員,認知機能が維持されており,介護保険を利用している者はいなかった。計測項目は,関節運動覚に加えて,感覚機能として表在感覚を,筋力として下肢伸展挙上筋力(ASLR)と足趾把持筋力(TG)を,バランス能力として片脚立位時間を計測した。関節運動覚は独自に開発した装置を用い,膝関節90°屈曲位からの伸展方向(eJMS)と屈曲方向(fJMS)の他動運動(3mm/s)に対して,被験者が感知するまでの距離を閾値とし,2施行の平均値を採用した(計測信頼性:90°伸展ICC(1,1)=0.76(p<0.01),90°屈曲ICC(1,1)=0.84(p<0.0001))。

表在感覚モノフィラメントを用いて足底5カ所を刺激した時の触覚識別率を算出した。ASLRは徒手筋力計を,TGは足指筋力測定器を用いて計測した。

統計学的検討として,eJMS,fJMS各々と年齢,BMI,ASLR,TG,片脚立位時間の関連性について,Spearman順位相関係数を用いて5%水準にて有意判定を行った。

【結果】

eJMSは年齢(ρ=0.43,p<0.0001),足底感覚の識別率(ρ=-0.20,p<0.05),ASLR(ρ=-0.24,p<0.05),TG(ρ=-0.20,p<0.05),片脚立位時間(ρ=-0.28,p<0.01)と有意な相関関係が認められた。一方,fJMSは年齢(ρ=0.28,p<0.01)とASLR(ρ=-0.22,p<0.05)にのみ有意な相関関係が認められた。いずれも,加齢に伴い,あるいは身体機能,バランス能力の低下とともに関節運動覚の閾値が上昇した。

【結論】

本結果より,関節運動覚は他の機能と同様,加齢の影響を受けることが明らかになった。特に,eJMSは表在感覚や筋力,バランス能力と関連することが示された。関節運動覚を含む固有感覚は転倒の危険因子として知られている。今後は,地域における転倒予防活動の一環として,筋力やバランス能力とともに固有感覚の計測を経時的に行っていく。

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© 2017 日本理学療法士協会
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