理学療法学Supplement
Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-KS-33-2
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オプティカルフローがAPAに及ぼす影響
津田 菜子牧野 均
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抄録

【はじめに,目的】

動作を遂行する際,中枢神経系ではその運動によって生じる身体動揺を予測し,事前に姿勢制御を行っている。この体幹の安定を図るための機構を先行随伴性姿勢調節(以下APA)という。このAPAは,持ち上げ動作や上肢挙上動作でみられる。ここで,視覚的観点から大きさ-重さ錯覚という知覚現象に焦点を向け,APAを比較したところ,重いと予想される大きな容器の持ち上げ動作直前でAPAは増加することが示された。上記の研究では,視覚情報による対象物の形の認知がAPAに与える影響について考察している。

しかし,視覚機能には移動時の周辺風景の流れや見え方の変化から自己身体の運動や傾きを知覚し,姿勢を制御するというもう一つの機能がある。この動きの中で発生する知覚情報をオプティカルフローといい,進行方向を見据えて空間を前進する際,網膜上に進行方向の一点を中心として風景が拡大していくことをいう。オプティカルフローがAPAへ与える影響として,直線路の歩行開始時に主運動に先行して前脛骨筋が収縮したことが筋電図から観察されている

そのため今回の検証では,日常生活の中で頻繁に行う廊下を曲がる動作と真っ直ぐ進む動作を比較し,オプティカルフローが及ぼすAPAへの影響を検証する。

【対象】

健常男子大学生8名とした。

【方法】

表面電極(NORAXON)を左右の前脛骨筋・脊柱起立筋・多裂筋に装着し,ボールを蹴る方の脚を運動脚として運動脚の踵にフットセンサーを装着した。直線歩行と廊下を自然に曲がる歩行をランダムに各3回ずつ行った。フットセンサーにより踵接地時点を計測し,踵接地以前の0.2秒間と踵接地後0.2秒間の筋活動量を解析した。統計処理には,t検定を用いた。

【結果】

右へ曲がる直前の踵接地前0.2秒で左脊柱起立筋と左多裂筋の筋活動が直線歩行時に比べて優位に増加した。

【考察】

左脊柱起立筋と左多裂筋の筋活動について,廊下を自然に右へ曲がる時に直線歩行時に比べ増加した。このことから,日常生活の中で自然に曲がる時には,反対側の脊柱起立筋と多裂筋が働くことで姿勢制御していると考える。しかし,今回被験者が少なかったことに加え,歩く際のスタート位置を統一していなかったこと,個人によって廊下を曲がるタイミングが異なり方向転換直前の踵接地を明確にできなかったため,それらを今後に生かしていく必要があると考える。

【理学療法研究としての意義】

本研究の結果から,オプティカルフロー環境で歩行時のAPAに変化があることが示唆された。このことから,臨床場面で歩行練習をする際には,視覚情報の影響を考慮した周囲の環境設定も重要といえる。

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© 2017 日本理学療法士協会
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