主催: 日本理学療法士協会
(はじめに,目的)
ボツリヌス療法は下肢痙縮を改善するが,活動面の能力改善を得ることは難しいとされている。今回,脳卒中片麻痺患者に対し,ボツリヌス療法と4週間の理学療法(PT)を実施することで歩行能力改善に至ったため,以下に報告する。
(方法)
1,症例紹介
60代男性。左脳梗塞により右片麻痺を呈し,発症4ヶ月後にT字杖と短下肢装具を使用し歩行自立となる。発症7ヶ月後に下肢痙縮筋へA型ボツリヌス毒素製剤(BoNT-A)投与,及び歩行能力改善を目的としたPTを実施するため当院入院となった。BoNT-A投与前では下肢Fugel-Meyer-Assesment(下肢FMA)18点,足関節背屈可動域(足関節ROM)2°,足クローヌススコア4,足関節底屈筋のModified Ashworth Scaleは1+であった。歩行速度は0.41m/secであり,麻痺側に反張膝,分回しを認めた。
2,BoNT-A投与筋
腓腹筋内外側頭,ヒラメ筋,長母趾屈筋,長趾屈筋,後脛骨筋に各50単位,計300単位投与した。
3,PTプログラム(PT6単位/日,4週間)
BoNT-A投与翌日より下肢痙縮の改善を目的とした足関節底屈筋のストレッチ,足関節背屈筋に対する治療的電気刺激,膝関節伸展筋の筋力増強を目的とした階段昇降運動,歩行速度及び歩容改善を目的とした体重免荷トレッドミル歩行を主に行った。
4,歩行時筋活動評価
筋活動評価はTelemyo DTS(Noraxon社製)を用い,被検筋は麻痺側の前脛骨筋(TA),ヒラメ筋(SL),腓腹筋(MG),大腿直筋(RF),大腿二頭筋(BF)とした。また,フットスイッチ及びビデオカメラを筋電図と同期させ,時間距離因子(歩行周期,歩幅)を測定した。筋電図は生波形を全波整流し,9歩行周期(3歩行周期×3試行分)を加算平均した。次に歩行周期割合(荷重応答期,単脚支持期,前遊脚期,遊脚期)を求め,各歩行相の平均振幅を1歩行周期全体の平均振幅で除することで各歩行相の相対的な筋活動(%Avg)を算出した。また,TA-MG及びRF-BFのCoactivation Index(CoI)を算出した。
(結果)
BoNT-A投与後では下肢FMAは20点に改善し,足関節ROMは8°に拡大,足クローヌススコアは1に軽減した。歩行速度は0.47m/secに改善し,麻痺側の反張膝,分回しが軽減した。%AvgについてSLは荷重応答期に減少(115.6→96.9%),MGは遊脚期に減少(91.0→78.6%),RFは前遊脚期(128.6→52.2%),遊脚期(72.4→43.5%)に減少した。またRF-BFのCoIは荷重応答期(92.4→127.9%),単脚支持期(84.4→95.2%)に増加した。時間距離因子は麻痺側単脚支持期割合の増加(25.3→29.7%),麻痺側歩幅の増大(41.1→42.6cm)を認めた。
(結論)
BoNT-A投与により荷重応答期におけるSLの活動が減少し,荷重応答期,単脚支持期のRF-BFのCoIが増加することで,反張膝が軽減し単脚支持期割合が増加したと考えられる。また前遊脚期,遊脚期にRF,MGの過活動が減少したため,分回しが軽減し,麻痺側歩幅の増大と歩行速度の改善が得られたと考えられる。