主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに】
脳卒中患者の歩行練習では、患者自身による運動制御を促すことで歩行能力が改善するため、療法士の介助を最小限にすることが重要である。しかし、安全性の担保なしでは過介助を余儀なくされ運動を学習する機会が減少する。安全懸架装置(懸架装置)を用いた練習は、介助なしに転倒防止が可能で、自身で運動制御を行う機会が増し、効率よく運動学習が進むと考えられる。本研究では脳卒中患者の懸架装置を用いた歩行練習の有効性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は、当院の脳卒中患者で入院時のFunctional Ambulation Categories(FAC)が2点の27名とした。入院時に安全懸架群(懸架群)15名と対照群12名にランダムに割り当て、皆60分間の通常理学療法を週7日間、計4週間実施した。加えて、懸架群は懸架装置を用いた歩行練習60分、対照群は平地歩行練習60分を週5日間、計4週間実施した。懸架装置はレール走行式免荷リフトSS-450(モリトー社製)を使用し、患者の体幹部に装着した安全ベルトに接続した。練習中は患者自身による運動制御を促しバランスを崩した際でも介助せずベルトで転倒を防いだ。また患者に適した装具や杖を利用した。評価項目は年齢、性別、診断、発症後期間、在院日数、Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)下肢項目合計点の他に、FAC、FAC3点到達日数、Dynamic Gait Index(DGI)とし、開始時、2週時、4週時に評価した。群内の経過は開始時をコントロールとしてSteel-Dwassの多重比較検定を、群間差はMann-WhitneyのU検定(Bonferroni補正)にて解析し、有意水準は5%未満とした。
【結果】
両群の患者プロフィールに差を認めなかった。FAC3点到達日数の中央値は、懸架群は7日、対照群は17.5日であり懸架群で有意に短縮した。FACの経時変化では、懸架群は開始時、2週時、4週時の中央値が2-3-3であり、開始時から2週、4週の間に有意な改善を認めた。対照群は2-2-3であり、開始時から4週の間に有意な改善を認めた。DGIの経時変化では、懸架群の中央値が2-13-14であり、開始時から2週、4週の間に有意な改善を認めた。対照群は0-7-11であり、開始時から2週、4週の間に有意な改善を認めた。群間比較では、対照群に比べ懸架群の2週時のFACとDGIが有意に高値を示した。
【考察】
懸架装置による歩行練習により患者自身による運動制御を促すことで、従来歩行練習に比べ早期に監視に到達できる可能性が示唆された。それに伴い懸架群では早期から応用練習を行うことができ、2週時では応用歩行能力を示すDGIも有意に高かったと考えられる。しかし、4週時ではFAC、DGIの群間差を認めなかったことより、監視に到達した以降の歩行練習の難易度をさらに上げる余地があったと考えられた。また、両群とも4週時のFAC中央値は3であり、自立に至った者が少なかった。今後、課題難易度を調整した上で懸架装置を使用し早期の自立達成が可能となるか検討したい。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての患者に主治医から本研究の説明をし、同意を得た。また当大学倫理委員会の承認を得て実施した。