理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 19
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経験年数の違いが脳卒中片麻痺患者への介助歩行に及ぼす影響
丸山 千尋田代 耕一遠藤 正英
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抄録

【はじめに】

 脳卒中片麻痺患者の歩行は歩行速度の低下や麻痺側立脚期時間の短縮、律動的な歩行の破綻を認めるため、長下肢装具(KAFO)を装着し理学療法士(PT)の介助下での歩行練習が必要である。KAFO使用下での歩行練習は患者要因、装具要因、PTの介助技術などの介助要因が関与するとされ、PTの介助技術が患者の歩行に与える影響は大きい。しかし、KAFO装着下での介助歩行において介助技術が歩行に及ぼす影響を調査した報告は少ない。そこで、介助者の経験年数が脳卒中片麻痺患者の介助歩行に及ぼす影響を調査したため報告する。

【方法】

 介助者は1年目PT(1年目)、2年目PT (2年目)、6年目PT(6年目)の3名とし、被介助者は右視床出血を発症し3ヵ月経過した60歳代男性の左片麻痺患者 (下肢Brunnstrom recovery stageⅣ)とした。被介助者の麻痺側下肢に本人用のKAFO(膝継手:SPEX、下腿部分:シューホンブレース)を装着し、介助者は歩行速度や介助量等の条件を与えず約10mの介助歩行を実施した。歩行中は矢状面から動画を撮影し、定常化した3歩行周期を抽出し、1歩行周期の平均時間と1歩行周期の麻痺側・非麻痺側立脚期時間の平均値を測定し、健側を患側で除した値である健患比を算出した。また、麻痺側内側広筋の表面筋電図を測定し、得られたデータの1歩行周期における0~12%の値を整流化し各積分値の平均値を算出した。以上の測定項目を3名の介助者間において比較・検討した。

【結果】

 1歩行周期時間は1年目が1.25±0.07sec、2年目が1.11±0.06 sec、6年目が1.10±0.01 secとなった。健患比は1年目が79%、2年目が82%、6年目が86%となった。麻痺側内側広筋の筋活動は1年目が38.4±31.6μV、2年目が112.6±60.7μV、6年目が150.2±123.0μVとなった。

【考察】

 1年目は歩行速度が遅く立脚期時間の左右差が大きかった。2年目は歩行速度が速く立脚期時間の左右差が大きかった。6年目は歩行速度が速く立脚期時間の左右差が小さかった。介助歩行において歩行速度を上げることは容易であるが、立脚期時間の左右差が小さい歩行を行うには習熟が必要であると考えられた。また、麻痺側内側広筋の筋活動は2年目と6年目では明らかに生じたのに対し1年目は小さかった。内側広筋はヒールロッカー時に生じる膝関節屈曲の制御に働くとされ、2年目・6年目の介助歩行において歩行速度が速かったため麻痺側内側広筋の筋活動が増大したと考える。つまり経験年数が歩行速度や左右差、麻痺側下肢の筋活動へ影響を及ぼすことが分かった。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究には、当院の倫理委員会にて承認(2018061801)を受け実施した。

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© 2019 日本理学療法士協会
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