主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに】独力で座位を保てない者に対し,シーティングと総称される座位姿勢改善アプローチが行われるが,現状,その評価は見た目や経験,勘といった定性的なものが多い.このため,シーティングの臨床的有用性は広く認められながらも,そのエビデンスは十分明らかにされていない.座位姿勢は,シーティングの評価において最も基本的な情報である.これを定量化するためのツールとして画像解析ソフトや傾斜計を応用した計測装置などが既に製品化されているが,計測に時間と手間を要することなどから使用は限定的である.一方,近年,身体の3次元位置情報をより簡便に取得する手法として,深度センサ付きRGBカメラを応用した計測システムが普及しつつある.これは,前述の課題解決に繋がる高い可能性を持つが,実際の使用例の報告は見当たらない.そこで,今回,我々のシーティング・クリニックで同システムを1年間使用した経験から,その利点と欠点とを整理する.
【方法】対象は,シーティング・クリニックを受診し,理学療法士による介入を行った8例.深度センサ付きRGBカメラを用いた座位姿勢の計測システムとして,Mobile Motion Visualizer鑑(システムフレンド社製)を使用.カメラ位置を固定し,対象者の向きを変えて6方向(正面,右前方,左前方,右側方,左側方,後方)から座位姿勢を記録した.得られたデータは,初期姿勢の記録や介入前後の比較を目的として,上部体幹(胸骨線)の前額面および矢状面上角度として数値化された.これら実際の計測から解析までの過程,およびその結果に関して検討を行い整理した.
【結果】期間中,同システムを用いて計59回の計測を実施,1例あたりの計測回数は7.4回であった.1回の計測に要した時間は約1分間で,スムーズに行えた.最多17回の計測を実施した事例は当クリニックを定期的に受診し,PTによる介入前後の計測を6回実施できた.うち一回の解析結果を例示すると,正面で介入前86.7/31.2度(前額面/矢状面),介入後88.6/32.0度となり,その差が定量的に確認された.一方,同システムの使用開始当初,ソフトウェア上の設定等の問題から計測値に歪みが生じ,妥当な値が得られないことがあった.
【考察】同システムによる評価によって,座位姿勢に対する介入に関して,その前後の違いを部分的にではあるが定量化できた.他の3次元計測機器と異なり,計測準備や計測後の解析に大きな手間がかからず,計測自体もスムーズに行える点は,多忙な臨床において大きな利点と考えられた.しかしながら,我々が当初体験した計測値の歪み等,注意すべき点もあった.特に,カメラから見て奥行方向(矢状面)の情報に関しては,計測原理に起因するものであるが,その信頼性に関して問題を指摘する報告もある.総合的には,簡便に定量的な情報が得られることから,シーティングのエビデンス構築に繋がるデータ形成の一助となることが期待された.
【倫理的配慮,説明と同意】本発表内容は,臨床での計測結果を後方視的に纏めたものであり,個人情報も含まれていない.