主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】
高齢女性の尿失禁頻度は極めて高く、生活の質を低下させる疾患であり、精神的な苦痛や日常生活での活動性低下をもたらす。恥ずかしさのため尿失禁を誰にも相談できない高齢者も多く、相談しても単に「年のせい」として片づけられてしまうことも多い。このような背景から、平成27年度より介護予防普及啓発事業として在宅高齢女性向けの骨盤底筋トレーニングを公民館等で実施している。しかし、尿失禁の状況及び生活習慣との関連について未把握だったため、在宅高齢者に対して実施している生活習慣アンケートの質問項目に尿失禁についての質問を追加し調査した。本報告はアンケート結果をまとめ、在宅高齢女性の尿失禁予防対策の検討を目的とした。
【方法】
平成29年度75歳到達者等に対して実施した「生活機能に関する基本チェックリスト」に生活習慣アンケートを同封し送付、郵送にて回収した。生活習慣アンケートの対象者数は女性925人とし「尿漏れが気になることがありますか(以下、尿漏れが気になる)」の質問をその他の生活習慣(運動、食事、社会参加・交流等)の回答をχ2乗検定(有意水準1%未満)にて検討した。
【結果】
回答数は739人(回収率79.9%)、内260人(35.2%)が「尿漏れが気になる」で「はい」との回答だった。「よい生活習慣を心掛けている」「こまめに体を動かす」「運動を毎日行っている」「足腰の痛みがある」と「尿漏れが気になる」の回答間では、有意差を認めた。「就業・定期的な地域活動・グループ活動している」「規則正しく1日3食食べる」「相談できる人がいる」と「尿漏れが気になる」の回答間では、有意差を認めなかった。
【結論】
高齢女性における尿漏れと生活習慣の関連について報告した。身体活動量が多いと思われる回答では「尿漏れが気になる」で「はい」の回答が有意に少ないことから、「尿漏れが気になる」人に対しては身体活動を増加させる施策と足腰の疼痛対策が必要と思われる。生活習慣の回答では「よい生活習慣を心掛けている」で「はい」の回答では「尿漏れが気になる」で「はい」の回答が有意に少ない。しかし、「規則正しく1日3食食べる」で「はい」の回答で「尿漏れが気になる」で「はい」の回答間で有意差を認めないことから、「尿漏れが気になる」人に対しては、食事だけでなくよい生活習慣の具体例の提示が必要と思われる。社会参加・交流の回答では「就業・定期的な地域活動・グループ活動している」「相談できる人がいる」で「はい」の回答は、「尿漏れが気になる」で「はい」の回答間で有意差を認めないことから、尿漏れを気軽に相談できる環境にないと推察された。このことから、在宅高齢女性の尿失禁予防対策として、骨盤底筋トレーニング開催場所や運動を中心とする住民集いの場の拡大、指導人材の育成、個人への尿漏れ対策の普及啓発等が必要と考える。
【倫理的配慮,説明と同意】
生活習慣アンケートは課内での決裁後に実施し、アンケートの集計は情報提供について同意を得た方からの回答のみを使用した。倫理的配慮については、ヘルシンキ宣言に基づき配慮を行った。