理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-15-3
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口述演題
認知症の発症と関連する歩行指標の検討
土井 剛彦堤本 広大中窪 翔牧野 圭太郎牧迫 飛雄馬島田 裕之
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抄録

【はじめに、目的】

高齢者の歩行は、歩行速度だけでなく時空間指標を用いて多角的に歩行能力を評価する必要があると考えられている。歩行能力低下が認知機能低下や認知症と関連することが、疫学や脳画像データを用いた研究において歩行速度を中心に検討されてきた。しかし、歩行速度を含む歩行の時空間指標において、どの指標が認知症の発症と関連しているのかについては未だ十分な知見が得られていない。そこで、本研究は、時空間指標を用いて歩行能力を評価し、各指標が認知症の発症とどのような関係を有しているかについて、縦断調査により検討することを目的とした。

【方法】

本研究は、National Center for Geriatrics and Gerontology - Study of Geriatric Syndromesデータベースより、2011年度に実施した調査に参加した者を抽出し、診療情報が得られない者、ベースラインにおいて認知症、パーキンソン病、脳卒中の病歴がある者、歩行測定が完遂出来なかった者を除く、4161名を対象にした。ベースラインにて、シート式下肢加重計(ウォークWay)を用いて歩行計測をした。計測路は2.4m、加速・減速路は各々2mとし、通常歩行条件を5回計測した。歩行速度(m/s)の計測に加え、ストライド長(m)の平均ならびにcoefficient of variation(CV: %)を算出した。共変量として、一般特性、医学情報、服薬数、認知機能、身体活動習慣を聴取した。医療診療情報をもとに、追跡期間中の認知症の発症をアウトカムとした。

【結果】

対象者4161名(平均年齢72歳、女性53%)から、追跡期間(中央値44ヶ月)内に打ち切りになった者(死亡:114名、転出:36名)を除き、245名に認知症の発症がみられた。Cox比例ハザードモデルを用いた解析において、共変量無しのモデルでは歩行速度、ストライド長、ストライドCVの各指標において認知症の発症と有意な関連性が認められた(all p < 0.05)。しかし、共変量を投入したモデルでは歩行速度(hazard ratio(HR): 0.39 [95%CI: 0.20-0.74])、ストライド長(HR: 0.33 [0.15-0.74])と認知症の発症に有意な関連性が見られ、ストライドCVでは有意な関係性はみられなかった(HR: 1.05 [0.98-1.11])。

【結論】

歩行能力の低下の中でも、歩行速度ならびにストライド長が認知症の発症に対して有意な関連性を有していた。認知症のリスク評価を行う場合には、認知機能評価だけでなく歩行能力についてもあわせて評価し、各個人の機能低下に応じた介入を行う必要があると考えられる。

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は、著者所属機関の倫理・利益相反委員会の承認を受け、対象者に対し本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明を行い、同意を得た後に実施した。

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© 2019 日本理学療法士協会
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