理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-B-8-1
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口述
脳卒中後症例1名における麻痺側下肢振り出し時の過剰努力についての病態特性
-筋間コヒーレンス解析を用いた継時的変化についての検討-
山本 泰忠
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抄録

【はじめに・目的】

近年,脳卒中後症例における歩行速度は,皮質脊髄路(Corticospinal Tract: CST)の興奮性と関連することが報告されている(Kitatani R,2016).脳卒中後症例における歩行トレーニングを構築していく上で,CSTをはじめとする下降性神経系の出力特性を把握することは重要であると考えられるが,脳卒中後症例の歩行中における下降性神経系の継時的経過を報告したものはほとんど散見されない.今回「歩幅の減少」と「麻痺側遊脚期の過剰努力」が問題点であった脳卒中後症例1名に対し,歩行障害の病態特性について筋間コヒーレンス解析を用い,継時的変化について検討したため,考察を交え報告する.

【方法】

対象は左前頭葉出血により右片麻痺を呈した女性1名(40歳代,評価開始日:116病日)であり,下肢BRSはⅢ〜Ⅳであった.方法はフリーハンド歩行(快適速度)にて10m歩行テストを1週間に1度の頻度で計4回測定を行った.測定項目は歩行速度とGait-Stability Ratio(GSR;ケイデンス/歩行速度),また麻痺側前脛骨筋間コヒーレンス(TA-TA),前脛骨筋-外側腓腹筋間コヒーレンス(TA-LG)を筋電計(Gait Judge System: Pacific Supply社)を用いて計測した.下降性神経系出力(随意運動・制御)の評価には,TAとLGから得られた波形にWavelet coherence analysisを用い,β帯域(20-25Hz)およびγ帯域(50-60Hz)における平均値を算出した.なお,随意運動はβ帯域,随意制御はγ帯域であるとされており,値が1に近いほど興奮性が高いことを示す.

【結果】

①/②/③/④週目の順に,歩行速度は0.57/0.56/0.56/0.68(m/s),GSRは2.5/2.6/2.5/2.3と継時的に減少を認めた.β帯域におけるTA-TAは0.91/0.98/0.97/0.97,TA-LGは0.74/0.89/0.97/0.97,γ帯域におけるTA-TAは0.99/0.88/0.91/0.28,TA-LGは0.85/0.36/0.4/0.28であり,TA-TA(γ帯域)は③-④にかけて大きく減少,TA-LG(β帯域)は継時的に増加を認めた.

【考察】

「歩幅の減少」について,③-④にかけてGSRの減少および歩行速度の増加を認めた.GSRは歩行戦略を評価し,歩行速度の構成におけるストライドの占める比率を示しており,ストライドが大きいほど値は小さくなるとされ(Cromwell RL,2004),①-③と比較して④はストライドを増大させて歩行動作を行っていることを示す.これに対応しTA-LG(β帯域)は継時的に増加しており,歩行時における麻痺側TA-LG増加を報告した先行研究を支持した(Kitatani R,2016).

次に「麻痺側遊脚期の過剰努力」について,③-④にかけて歩行観察上では過剰努力の軽減が見られた.同時期に,随意制御の程度を示すTA-TA(γ帯域)が大きく減少しており,歩行観察上と客観的指標による結果が過剰努力の軽減を説明する可能性が示唆された.

本研究の結果は,歩行中の下降性神経系出力の縦断的データの有効性と脳卒中後症例の歩行能力を説明するより病態特性に迫った評価項目として新たな切り口を提案できると考える.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は,当院倫理委員会の承認を得て実施した.またヘルシンキ宣言に基づき,対象者の保護に十分留意し,対象者には本研究の目的について説明し,同意を得た後に実施した.

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© 2019 日本理学療法士協会
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