理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-B-8-3
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口述
回復期脳卒中片麻痺患者に対する最大速度歩行が麻痺側遊脚期の運動戦略に及ぼす影響
―前遊脚期における下肢の運動制御の変化に着目して―
山田 辰樹大田 瑞穂
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抄録

【はじめに・目的】

脳卒中片麻痺患者(CVA)の歩行能力向上に向けた訓練として,最大速度歩行(MSW) 訓練があり歩行速度,耐久性の改善に繋がるとされている. しかし,CVAに対するMSWは神経生理学的背景から,Toe clearance獲得のために代償戦略を増強する可能性が考えられる.また,遊脚期の制御は前遊脚期(Psw)に依存すると考えられる.その為,本研究の目的は至適速度歩行(CSW)とMSWのPswにおける下肢の運動制御の変化に着目し,麻痺側遊脚期における運動戦略の変化に影響を及ぼす因子の検討を行うことである.

【方法】

対象は歩行が見守り以上のCVA27名(年齢:61.2±11.4歳,発症後:126.2±45.2日).三次元動作解析装置と床反力計を使用し,計測課題は歩行補助具を用いないCSWとMSWとした.対象者の除外基準は,歩行に影響を与える高次脳機能障害や認知機能障害,失調や整形外科的疾患を有する者,CSW時に麻痺側遊脚期の膝関節屈曲角度が60°以上の者とした.算出データは歩行速度,Pswの運動力学的変数(足関節底屈角度(以下A)・底屈モーメント(以下M)・求心性パワー(以下P),膝関節屈曲A・伸展M・遠心性P,股関節伸展A・屈曲M・求心性P)の最大値を算出した.また,遊脚期における股関節及び膝関節屈曲,足関節背屈運動によるToe clearanceの量を表す指標として下肢短縮長(SHTL),代償戦略によるToe clearanceの量表す指標としてCompensatry(Com)の算出を行った.Mは身長・体重で正規化を行い,Pは体重で正規化を行い,SHTL, Comは,身長で正規化を行った.統計解析は,CSWとMSWの2群間における歩行速度,Pswの運動力学的変数の比較を対応のあるt検定とWilcoxonの符号付順位和検定を用いて分析を行った.また,有意な差があった項目におけるCSWとMSWの条件間での変化量とSHTL, Comの変化量との関連をSpeamanの相関係数を用いて検討を行った(有意水準5%).

【結果】

3名がCSW時の膝関節屈曲Aが60°以上であったため,統計処理を行う際に除外した.歩行速度はMSWで有意に高値を示した.足関節底屈AはMSWで有意に高値を示した.足関節求心性PはMSWで有意に高値を示した.膝関節屈曲AはMSWで有意に高値を示した.膝関節伸展MはMSWで有意に高値を示した. 膝関節遠心性PはMSWで有意に高値を示した.股関節屈曲MはMSWで有意に高値を示した. 股関節求心性PはMSWで有意に高値を示した.足関節底屈Mと股関節伸展Aでは有意差を認めなかった. SHTLの変化量は足関節P(r=0.51,p<0.05)と膝関節屈曲M(r=-0.42,p<0.05)の変化量と有意な相関を認めた. Comは膝関節屈曲A( r=-0.62,p<0.05)の変化量と有意な相関を認めた.

【考察】

SHTLはPswにおける足関節求心性P,膝関節伸展Mの影響を受け,また,Comは膝関節屈曲Aに影響することが分かった.これらの要因は遊脚期の膝関節屈曲Aに影響を与えることが報告されており,遊脚期における下肢長の短縮や代償戦略の軽減には遊脚期の膝関節屈曲Aが必要である可能性が考えられ,これらの要因を考慮してMSWを行う必要があることが示唆された.

【倫理的配慮,説明と同意】

研究の実施に先立ち,当院の倫理員会にて承認を得た.なお、全ての被験者には予め本研究の目的・内容・リスクを十分に説明し,書面による同意を得た.

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© 2019 日本理学療法士協会
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