理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-B-11-2
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脳卒中片麻痺患者の重度上肢麻痺に対してHAL単関節を用いた運動療法の使用体験
森山 祐志牧野 航松尾 理恵織田 友子本多 歩美西本 加奈大木田 治夫
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キーワード: HAL, 生体電位信号, 運動療法
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抄録

【はじめに・目的】

 HAL自立支援用単関節タイプ(以下、HAL)はCYBERDYNE社より上市された動作支援機器であり、装着者の運動意図と同期した動作の補助・改善を特徴とする。今回経験した重度上肢麻痺の症例は、感覚フィードバックによる誤差学習が困難であり、意図した運動の制御に難渋していた。そのため、運動指令と筋出力の再構築を目的にHAL装着下での運動療法を実施した結果、若干の知見を得たので報告する。

【症例紹介】

 対象は右被殻出血後に左片麻痺を呈した40歳代男性で、発症から2ヶ月経過していた。Stroke impairment Assessment Set(以下、SIAS)は36点、 12段階片麻痺機能法Grade 4、Modified Ashworth Scale(以下、MAS)2、関節屈伸の自動可動範囲は肩/肘/手関節で35/10/0度、握力は計測不可、Fugl-Meyer(以下、FM)6点、Motor Activity Log(以下、MAL)0点であった。肩の痛みに加えて、動作は努力性で異常共同運動を認め、「肘が曲げにくいし伸ばしにくい。特に伸ばす方が難しい」との訴えが聞かれた。

 練習内容は9単位/日のうち、4単位/日を上肢治療とし、通常練習とHAL練習各々2単位を組み合わせた。10日間を1クールとして、2クール実施した。HAL練習では肘関節屈伸の反復運動を、背臥位(1クール)、椅座位・上肢懸垂(2クール)で実施した。また、HAL練習時は生体電位信号(以下、BES)と内省から適宜アシストを調整した。

【経過】

 SIAS(1クール前→後→2クール後)は36→43→45点、12段階片麻痺機能法はGrade 4→4→5、MASは肘関節屈曲筋2→1+→1+、肘関節の自動可動範囲は、屈曲(95→135→145度)、伸展(-85→-70→-50度)、FMは6→9→12と変化し、肩の痛みも軽減した。さらに、握力は測定不能→5.7→7.3Kgへ改善し、麻痺手で杖の把持が可能となった。MALは不変であったが、自主トレーニングの質やモチベーションが向上した。HAL練習後は「肘を伸ばしている感じが分かるようになった」と内省に変化を認め、屈伸時に運動方向に優位なBES抽出が可能となった。

【考察】

 1クール目は背臥位姿勢が上腕骨の安定を齎し、屈伸時に筋収縮形態の変換をより可能としたと考える。しかし2クール目では、最終伸展位付近で屈曲BESの高まりを認めた。最終伸展位で上腕二頭筋遠位部の求心性活動が強まったことが予想され、筋収縮形態の変換が不十分であったと考える。上肢懸垂による上腕骨不安定性が緊張を高めたと推測されるが、運動速度・時間・頻度・強度の再考が肝要であると考える。

 HALは単関節運動でありながら、脳幹下行系システムと皮質脊髄路の双方に影響を及ぼすことが示唆され、多関節運動連鎖の改善に貢献するものと考える。

【倫理的配慮,説明と同意】

装着者にはHAL装着の趣旨および内容、結果の取り扱い方法に関して十分に説明を行い、文書による同意を得た。

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© 2019 日本理学療法士協会
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