主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに・目的】
近年、非侵襲的に大脳を刺激するニューロモジュレーションを併用したリハビリテーションが脳卒中症例にも適応されてきている。その一つである経頭蓋直流電気刺激(Transcranial Direct Current Stimulation: tDCS)は、脳神経細胞に直接電気刺激を加え、脳の興奮性を局所的に高め、脳からの運動指令をより促通することができると報告されている。その有効性は、慢性期脳卒中症例に対しては報告されているが、急性期症例に対しての報告は少なく未だ明らかにされていない。そこで、急性期脳卒中症例に対しtDCSを用いたリハビリテーションを行ったのでその経験を報告する。
【症例紹介】
症例①:53歳、男性、診断名は左被殻出血。スキー場にて突然右上下肢麻痺と構音障害が生じ、当院救急搬送となった。CTにて左被殻出血を認めたが、その後の経過で血腫増大はしていないため保存的加療が選択された。発症4日後より理学療法を開始し、初期評価時の上田式12段階片麻痺機能検査(12段階麻痺)は上肢0、下肢0、手指0であり、運動性失語、SIAS 27点であった。発症4週時でも12段階麻痺は上肢1、下肢3、手指0であり、手指の運動麻痺改善目的にtDCSを開始した。
症例②:45歳、男性、診断名は左中大脳動脈塞栓症。夜外出する際に右上下肢麻痺が出現し、当院搬送となった。MRIにて左基底核から放線冠に脳梗塞領域を認め、発症日にtPAと血管内治療を実施した。発症2日後より理学療法を開始し、初期評価時の12段階麻痺は上肢2、下肢4、手指0と手指に強い運動麻痺を認めた。発症3週時でも12段階麻痺は上肢3、下肢7、手指2と麻痺が残存していたため、tDCSを開始した。
【刺激設定】
tDCSは障害半球の一次運動野直上に陽極を、非障害半球の前頭部に陰極を設置した。刺激強度は2.0mAで、20分間実施した。
【経過】
症例①:tDCSは2週間で10回実施した。初回実施前のFugel Meyerの上肢(手)項目(FM手項目)は0点であったが、実施直後には1点と不十分な集団屈曲を認めた。10施行後の転院時には12段階麻痺は上肢2、下肢6、手指2まで改善し、FM手項目は3点まで改善を認めた。
症例②:tDCSは10日間で8回実施した。初回実施前のFM手項目は1点だったが、初回実施後にFM手項目2点と不十分だが集団伸展可能となった。当院転院時には12段階麻痺上肢6、下肢7、手指4まで改善を認めた。
【考察】
2症例とも発症後3-4週後の比較的早期からtDCSを実施したが、有害事象は認めなかった。また、2症例とも即時的に運動機能の変化を認めたとともに短期的にも運動機能の向上を認めており、tDCSが関与した可能性が推察された。しかし、急性期脳卒中症例は自然回復に伴う麻痺の改善も大きいため、今後は対照群を設定した研究が必要と考える。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院倫理審査委員の承認を得るとともに、症例には十分説明し、書面にて同意を得た