理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-B-15-5
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歩行時に左下肢の振り出しが遅延した右前頭葉内側皮質下出血の症例
-左下肢の内的なリズム生成能力に対する介入-
矢田 拓也川崎 翼
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抄録

【はじめに・目的】

補足運動野(以下SMA)は,歩行時に下肢の内的なリズム生成を行い,歩行時の自律的な下肢の交互運動に関与していると報告されている.今回運動麻痺は軽度であったのにも関わらず,歩行時に左下肢の振り出しが遅延するといった特異的な歩行障害を呈した症例に対し,内的なリズム生成に着目し介入した結果,歩行能力改善を認めたため,その経過を報告する.

【症例紹介】

60代男性,右利き.SMAを含む右前頭葉内側の皮質下出血と診断された.既往歴は,クモ膜下出血(麻痺は認めず).第2病日目にリハビリテーション介入を開始し,第34病日目に回復期病院へ転院した.神経学的所見(第21病日目);意識レベル;JCS1,腱反射;左下肢にて減弱.病的反射;陰性.筋緊張;左下肢にて低緊張.BRS;左上肢Ⅵ,手指Ⅵ,下肢Ⅴ,感覚;表在,深部ともに正常.神経心理学的所見;TMT-A164秒,TMT-B256秒,CAT57点で全般性注意障害を認めた.把握反射,観念失行,観念運動失行は認めなかった.体幹機能;Trunk control test 100点.運動能力;MMT(R/L)は5/4~5.バランス機能は片脚立位(R/L 秒)5/3.歩行は独歩軽介助レベルであり,左遊脚期にて左下肢の振り出しが遅延し,その際左下肢が後方に残ったまま体幹が前屈してしまい介助を要する状態であった.10m歩行は14秒,28歩であった.5メートル歩行路での障害物をかわす課題は9秒であった.左下肢の振り出しの遅延は,平地での直線歩行,方向転換時に認めた.内的なリズム生成能力の評価;1.0Hz,0.5 Hzのリズムで端座位にて一側下肢の股関節屈曲を行わせ,提示したリズムで連続して行えた回数を記録した.1.0Hz(R/L 回)10/3,0.5Hz(R/L回)8/2であり,左下肢の内的なリズム生成能力の低下を認めた.病態解釈;SMAは歩行時に下肢の内的なリズム生成を行い,歩行時の自律的な下肢の交互運動に関与していると報告されている.本症例においては,左下肢の内的なリズム生成が障害されたことによって,遊脚期の左下肢の振り出しが遅延したと推察した.介入;40分/日,13日間介入した.背臥位,坐位,立位にて提示したリズムに合わせて両下肢の交互運動を自動運動で行わせた.介入初期に関しては口頭にてリズムのカウントを行い,課題の進行に合わせて口頭でのカウントを減らしていき,左下肢の内的なリズムの生成を促した.

【経過】

第21病日目と第33病日目の測定項目を比較した.BRS,MMT,注意機能に変化は認めなかった.左下肢の内的なリズム生成能力は,1.0Hz(回)3→10,0.5Hz(回)2→6と改善した.10m歩行は14秒→12秒,28歩→20歩,5メートル歩行路での障害物をかわす課題は9秒→6秒とそれぞれ改善した.左遊脚期における左下肢の振り出しの遅延は改善し,屋内独歩自立レベルとなった.

【考察】

SMAを含む右前頭葉内側の損傷により,歩行時に左下肢の振り出しが遅延した症例に対し,内的なリズム生成課題を行うことは有効であることが示唆された.

【倫理的配慮,説明と同意】

本症例研究にあたり,対象者に目的,方法,研究結果の取り扱い等に関して十分な説明を行い,同意を得た.

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© 2019 日本理学療法士協会
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