理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-B-17-8
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脳卒中患者の独歩獲得に必要な身体機能
大西 徹也
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キーワード: 歩行, 片脚立位, 脳卒中
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抄録

【はじめに・目的】

脳卒中患者が歩行を獲得する際、杖へ過剰に支持を行う患者を見かける。そのような患者が杖を外した時の歩容は麻痺側下肢での立脚が十分に行えず股関節と骨盤の姿勢が大きく崩れている。今回、当院回復期リハビリテーション病棟を退院した脳卒中患者のデータを後方視的に集計し、杖を必要としない歩行(以下、独歩)獲得に至った要因を調査した。

【方法】

平成22年から27年に当院回復期リハビリテーション病棟を退院した脳血管障害患者441名の内、T字杖歩行を獲得した69名(脳梗塞51例、脳出血18例)と独歩を獲得した133名(脳梗塞91例、脳出血42例)を対象とした。小脳のみに限局する梗塞及び出血、くも膜下出血、脳挫傷、脳炎、脳腫瘍は除外した。退院時の身体機能評価より、下肢ブルンストロームステージ(以下、下肢BRS)、麻痺側片脚立位時間、非麻痺側片脚立位時間、timed up & go test(以下TUG)、10m最大歩行速度(以下10MWT)、berg balance scale(以下BBS)を集計し、独歩獲得を目的変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。多重共線性を考慮するため、ピアソンの積率相関係数及びスピアマンの順位相関係数を求め、係数が高値の項目は臨床的に有意義と考えられる項目を選択し分析を行った。また、Receiver Operating Characteristic(ROC曲線)を用いて独歩獲得のカットオフ値を算出した。統計ソフトはR2.8.1を用い有意水準5%とした。

【結果】

相関係数より説明変数に下肢BRS、麻痺側片脚立位時間、10MWTを選択した結果、麻痺側片脚立位時間(P<0.05 オッズ比1.07、オッズ比95%信頼区間1.00-1.15)、10MWT(P<0.01 オッズ比11.96、オッズ比95%信頼区間3.09-46.32)が抽出された。ホスマーレメショウ検定はP=0.67、判別的中率は74%であった。独歩獲得を判別する麻痺側片脚立位時間のカットオフ値は4.1秒(感度75%、特異度77%、AUC0.83)、10MWTのカットオフ値は1.03m/sec(感度72%、特異度82%、AUC0.84)であった。

【考察】

麻痺側下肢の随意性と独歩獲得は必ずしも一致しておらず、麻痺側下肢で片脚立位が行えるかどうかが独歩獲得の要因であった。変形性膝関節症等運動器の問題によって止む無く杖歩行となった例も考えられるが、非麻痺側上肢で杖を使用することによる障害脳抑制の可能性、麻痺側中殿筋の活動量低下の可能性が示唆される。杖へ過剰に荷重し体幹を辛うじて水平に保つ歩行でも自立すればFIMの移動点数は6点を得られる。移動手段の獲得という面で杖歩行にメリットがあるかもしれないが、ともすれば本来ヒトのもつ2足歩行の可能性を閉ざしているかもしれない。今後、脳卒中患者の片脚立位時及び歩行時の骨盤の傾きと側方偏移量に着目して調査していきたい。

【倫理的配慮,説明と同意】

今回用いたデータは入院中に行う身体評価であり、本研究によって対象者へ生じる新たな観察や介入は無い。データの取り扱いには十分注意し匿名化操作により個人を特定できないように配慮した。また、平成30年度の当院倫理委員会にて本研究は認証されている。

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