理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-B-20-6
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覚醒低下が発動性・意思の疎通性を阻害していた視床出血例に対する理学療法の経験
佐藤 悠吾吉尾 雅春
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抄録

【はじめに】

 今回、覚醒低下により発動性・意思の疎通性が阻害されADLに重度介助を要した視床出血例を経験した。覚醒の改善を目的とした長下肢装具での立位・歩行練習が本人の反応を引き出し、家族による安全な介助と食事の経口摂取という目標の達成に繋がったため、報告する。

【症例紹介】

 82歳女性、身長149㎝、体重61.6kg、左視床出血を発症後、45病日に当院入院。視床背側を中心とした出血、また両側皮質下の広範な低吸収域から、運動機能障害に加え覚醒・発動性の低下がみられた。入院時FIMは18/126で移乗は2人介助、食事は経鼻栄養であった。BRSは上肢Ⅰ手指Ⅰ下肢Ⅰ、Scale for Contraversive Pushing(SCP)は6/6点。非麻痺側下肢は股関節・膝関節屈曲90°で足関節背屈-30°と臥位でも抵抗があり寝返りや起居動作を阻害していた。また排泄介助などに抵抗がみられた。日中も約4時間睡眠し運動療法中でさえしばしば閉眼した。発語はなく、座位では頸部が屈曲し追視も少なかった。病前は三女と同居し趣味はTV鑑賞や化粧であった。

 家族の希望は会話や経口摂取、自宅退院であった。安全な家族介助の確立・経口での栄養確保のため、覚醒・姿勢定位障害の改善、介助への抵抗の軽減を理学療法の目標とした。

【経過】

 入院時より座位練習や長下肢装具での立位練習を実施した。1ヵ月目で発動性の向上がみられ、頸部の伸展や髪を梳くなどの自己動作が出現し、嗜好品での直接嚥下練習が開始されたが、介入中閉眼する場面は残存した。そのため歩行練習も積極的に実施した。

 立位・歩行場面では介助者の手を振り払ったり、姿勢変化に対してpushing現象が強く出現したため非麻痺側にも下肢装具を使用しPT2名で介入した。家族にも積極的な参加を依頼し、手を引くなど不安の軽減に努め、立位で飼い犬を抱えさせるなど快刺激の入力も行った。

 3ヵ月目で介入中の閉眼は減少し、日中の睡眠も約2時間となった。介助への抵抗は減少し、追視や発語も増加し家族が自宅退院の話をすると頷く場面がみられた。SCPも4/6点となった。3食経口摂取となったが、耐久性の低下から1食平均300kcalで変動も大きかった。そのため立位・歩行練習の割合を減らし、座位練習・家族指導を中心に実施した。

 5ヵ月目で、BRS上肢Ⅰ手指Ⅰ下肢Ⅱ、SCPは2.5/6点、FIM20/126。移乗・排泄介助などが家族で可能となり、食事量も変化はないが家族介助で平均的に十分量を摂取できた。183病日、自宅退院となり帰宅した際は涙を流し喜んだ。

【考察】

 本症例において立位・歩行練習を導入した理由として、追視や自己動作の出現などの発動性の改善が挙げられる。覚醒の向上により意思の疎通性が改善できると考え、その結果目標の達成へ繋げることができた。

 重度症例における介入はADLの顕著な改善を望むことは難しく、座位練習や拘縮予防が中心となってしまうケースもある。本症例を重度症例への理学療法の意義や可能性を再考する一助としたい。

【倫理的配慮,説明と同意】

本報告にあたり、家族に趣旨を説明し同意を得た。

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© 2019 日本理学療法士協会
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