理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-S-1-4
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口述
脳梗塞・脊髄梗塞を発症後、再生医療を実施し集中的リハビリテーションを実施した1症例
熊谷 文宏加藤 諒大伊藤 耕栄山田 勝雄齋藤 孝次
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抄録

【はじめに・目的】

近年、脳・脊髄障害に対する新しい治療法の一つとして再生医療の可能性について期待が膨らんでいる。その際の身体機能の回復には、投与された細胞と残存している神経細胞とのネットワークの構築が重要であり、リハビリがその一助になると言われている。

脳や脊髄の神経線維を評価する方法として、拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging:DTI)、特に拡散テンソルトラクトグラフィ(diffusion tensor tractography:DTT)が注目されている。DTIでは神経線維を可視化し定量的に評価することが可能である。

当院では、脂肪由来間葉系幹細胞(以下幹細胞)を用いた再生医療を実施しており、リハビリと併用療法を行なっている。また、DTIを用いて神経線維を定量的に評価している。

今回、再生医療を実施し幹細胞投与前(92病日目)と投与4週後(122病日目)においてDTIと身体機能の改善が得られた症例について以下に報告する。DTIは関心領域を脊髄へ設定しTh6〜12まで拡散異方性(fanctional Anisotoropy:FA)値とDTTを計測した。

【症例紹介】

症例は50歳代の男性で、弓部大動脈置換術後8病日目に脳梗塞・脊髄梗塞を発症し左片麻痺と対麻痺を呈していた。55病日目に当院へ入院となり、94病日目に幹細胞を投与され、130病日目までリハビリを継続していた。投与前の身体機能は、左BRS上肢/手指Ⅵ・下肢Ⅲ、ASIA下肢運動スコア34点、体幹伸展筋力MMT 2、FBS 31点、SCIM 72点、WISCI 12、歩行速度24m/分、歩行率84.6歩/分、TUG 31.6秒、MMS 30点、高次脳機能障害は認めなかった。DTTはTh6〜8で神経線維の連続性が途切れており、FA値はTh6で0.25、Th7で0.22であった。

【経過】

幹細胞投与前のリハビリはPT3単位・OT2単位、投与後はPT3単位・OT3単位に単位を増加して実施した。PTプログラムは、歩行練習ロボットを使用した歩行訓練、筋力訓練などを実施した。投与4週後の評価は、ASIA下肢スコア37点、FBS 44点、体幹伸展筋力MMT 3、SCIM 75点、WISCI 15、歩行速度31.8m/分・歩行率106.7歩/分、TUG 22.8秒と身体機能の改善を認めた。DTTはTh6~8で神経線維の連続性が改善、FA値は、Th6で0.37、Th7で0.43と向上を認めた。

【考察】

脊髄の可塑性には、受傷後の神経繊維自体の可塑性と感覚刺激の繰り返し入力による神経回路の再組織化によるものがある。DTTでは損傷部位は神経線維の連続性が途切れて描出される。FA値は1に近づくほど神経線維が密になっていると言える。症例は再生医療実施後、DTTで神経線維の連続性の改善とFA値の上昇を認めた。これは神経線維の再生を意味し再生医療が神経線維自体の可塑性に関与した可能性を示唆している。この時期に集中的なリハビリを実施したことで、体幹・下肢の機能が向上し歩行の改善に繋がった。Hebbの法則では、シナプスは活動依存性に強化されるとしており、集中的なリハビリを実施したことが神経ネットワークの再構築に関与した可能性が示唆される。

【倫理的配慮,説明と同意】

当院では、平成28年1月に脂肪由来間葉系幹細胞を用いた再生医療を特定認定再生医療等委員会に認可され、同年5月より提供を開始した。

本研究を行うにあたり、ご本人にヘルシンキ宣言に基づき、同意書を用いて、本研究以外では使用しない事、それにより不利益を被ることはないことを説明し、署名をもって同意を得た。

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