理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-S-2-1
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口述
慢性期脊髄完全損傷者における独立歩行について
-完全損傷でもあきらめない-
渡部 勇石河 直樹
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抄録

【はじめに・目的】

成人脊髄損傷者は神経回路を新たに再建する能力が乏しく、脳や脊髄の障害に対し根本的な治療法が確立されていない現状にある。特に脊髄完全損傷者においては麻痺域の筋委縮が亢進し、筋収縮による立位や歩行が困難であることが多い。今回、慢性期脊髄完全損傷者を対象に医療保険外の施設でトレーニングを行い、独立歩行を獲得した一例を報告する。

【症例紹介】

50歳代、男性、2008年6月交通事故にて受傷しT12.L1完全損傷と診断、フランケルAである。いわゆる脊髄完全損傷の状態で麻痺域の筋委縮が著明に認められ、損傷部位以下の運動と感覚の脱失が認められた。日常生活動作は車椅子で自立し生活面において介助を要さない状態であった。トレーニング期間は2011年11月から2018年5月である。

【経過】

2011年11月、トレーニング開始。2012年8月頃、手すりを把持した膝関節骨性支持での立位が非介助で可能となった。2014年3月頃、膝関節骨性支持での立ち上がりから立位保持までが非介助にて可能となった。2015年8月頃、肘支持型歩行車にて膝関節骨性支持の状態で独立歩行が可能となった。2016年1月頃、肘支持型歩行車を購入し、自宅でも立位と歩行が可能となった。2016年8月頃、両側ロフストランド杖立位の安定を目指しトレーニング開始した。2018年5月頃、膝関節骨性支持の状態で両側ロフストランド杖にて10mの自力歩行が非介助にて可能となった。1回3時間のトレーニングを週1回実施し、再び自分の足で歩くという目標を立て、約6年間トレーニングを継続してきた。内容は体幹トレーニング、立位、歩行での膝関節骨支持練習、吊り下げ式歩行機会での歩行練習、下肢サイクリング運動、免荷式スクワット、鏡を使った視覚的情報入力、パワープレート(3次元振動機器)、外部刺激(徒手、足底痛覚刺激、電気刺激)などを実施した。

【考察】

今回、膝関節の骨性支持を利用した独自の歩行を獲得した症例を経験した。感覚鈍麻な麻痺域であっても積極的に活動を促すことで運動性触覚に働きかけ、自身の脚の長さや地面の硬さ、保持位置に関する情報さらには、自身の脚がどういった方向に向いているのかを知ることができるようになり、独立歩行が可能となったと考える。また、バランスを崩して膝関節の骨性支持が外れないように、骨盤帯や体幹部の安定性を促すトレーニングを実施したことも寄与したと考える。症例は未だに多くの時間を車いすで生活されている。しかし現在の医学では脊髄損傷になると「一生車椅子」と宣告されることも多いなか、限定的な場面ではあるが目標としていた自力歩行を達成した。また、趣味のバイクにも乗ることが可能となり二次的障害の予防のみならず、精神的な生きる活力を生み出すことができるたと感じる。

【倫理的配慮,説明と同意】

本人・家族にヘルシンキ宣言に沿って説明の上、同意書への著名を得た上で実施した。

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