理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: O-022
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口述発表
リフトの吊り具選定にセラピストが関わる意義
山﨑 哲司佐藤 史子
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キーワード: 吊り具, リフト, リスク管理
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抄録

【はじめに・目的】横浜市総合リハビリテーションセンター(以下当センター)の理学療法士・作業療法士(以下セラピスト)は横浜市住環境整備事業の判定機関として、横浜市がリフト設置や吊り具の助成を行う際、利用者の身体機能評価を実施し、吊り具選定のアドバイスを行っている。またケアマネジャーが介護保険下で導入する場合も依頼に応じて後方支援を行っている。今回、当センターのセラピストが吊り具選定の際に考慮した身体機能面の注意事項とその対応について調査し、セラピストが選定に関わる意義について検討した。

【方法】当センター独自に吊り具の評価表を作成し、身体機能面の注意事項の項目に①股関節周囲の脱力、②筋緊張の異常、③頸部の不安定性、④頸部の角度変化、⑤関節可動域制限、⑥股関節脱臼のリスク、⑦重度の体幹変形、⑧痛み、⑨肩周囲の脱力、⑩皮膚の脆弱性、⑪易骨折性、⑫特になし、⑬その他の項目を設定し、それらの対応と共に吊り具選定の際に記入した。平成24年度、25年度に当センターが吊り具選定に関わり記録が残存する52名(56件)を対象に上記のデータを抽出した。

【結果】利用者の平均年齢は41.2歳(3歳~91歳)。原疾患は脳性麻痺19件、その他の脳原性疾患10件、脊髄損傷(頸髄を含む)6件、筋ジストロフィー症3件などであった。障害名は、四肢麻痺36件、四肢体幹機能障害9件、両下肢麻痺6件など移乗動作が困難な障害像を呈していた。リフトの利用目的はベッドと車椅子間の移乗が31件で最も多く、次いで浴槽移乗23件、ベッドとポータブルトイレ間が7件であった。屋内の移動様式は車椅子や電動車椅子利用者が殆どであったが、床を這っての移動も1件みられた。身体機能面の注意事項に記載があった利用者は41件(73%)であった。項目は複数回答ありで①股関節周囲の脱力11件、②筋緊張の異常11件、③頸部の不安定性9件、④頸部の角度変化4件、⑤関節可動域制限5件、⑥股関節脱臼のリスク5件、⑦重度の体幹変形5件、⑧痛み4件、⑨肩周囲の脱力4件、⑩皮膚の脆弱性2件、⑪易骨折性2件、⑫特になし15件であった。これらの対応として、吊り具タイプの選定やストラップの長さ調整、ネックカラーの併用、介助方法の指導などで対応し、必要に応じ主治医の助言を受けて進めていた。

【結論】今回の結果から吊り具の選定において少なからず身体機能面に注意を要する利用者が存在し、吊り具の知識を持ち、身体機能評価もできるセラピストが吊り具の選定において区役所のソーシャルワーカーなど一次支援者とチームを組むことの有効性が示唆された。介護保険下では、障害を持つ利用者であってもセラピストの介入なく吊り具の選定が行われる現状があり、身体機能面へのリスクが危惧される。しかしながら今回はセラピストが関わらなかった場合の不利益については、調査しておらず今後検証が必要と思われる。

【倫理的配慮,説明と同意】データの抽出においては個人名を用いず、記入表も鍵のかかる場所に保管し、集計が終わった後は廃棄するなど、個人情報の漏えいに配慮した。

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© 2019 日本理学療法士協会
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