理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P-006
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ポスター発表
実際の現場における移乗の介助方法
-腰痛予防に向けた指導内容の検討-
長谷川 瑞樹
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キーワード: 移乗, 介助方法, 腰痛
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抄録

【はじめに・目的】

厚生労働省によると,平成23年に4日以上の休業を要する腰痛は職業性疾病の6割を占めており,このうち社会福祉施設が約19%を占めている.そして社会福祉施設における腰痛の発生状況において移乗作業が70.0%を占めるという報告がある.この問題に対し,労働衛生行政は「職場における腰痛発生状況の分析について」や「介護作業者の腰痛予防対策のチェックリストについて」を発出している.また,平成25 年「職場における腰痛予防対策指針」の全面改訂により予防対策を普及させている.このような現状のなか,当院では腰痛予防と介助技術の向上を目的とした移乗動作の介助講習会を実施してきている.2016年には小規模多機能型居宅介護事業所,その後複数の特別養護老人ホーム(以下特養)への講習会を実施した.しかし,介護職員の腰痛予防,介護技術の向上把握や対象施設に則した指導方法がなされているかは明らかとなっていない.そのため,対象施設における移乗の介助方法を実際に見学し,指導内容を検討,講習会に反映させることを目的とした.

【方法】

複数回講習会を実施し関係性のある特養に対し,講習会終了後に直接見学の依頼を行なった.見学は7ユニット中3ユニットにて実施.その中で,ベッドと車椅子間および入浴,トイレの移乗の介助方法を見学し,腰痛の原因となり得る介助方法を観察した.

【結果】

ベッドと車椅子間の移乗では全介助での側方スライドが必要な利用者に対し,スライディングシートを使用していた.入浴は機械浴での全介助移乗を見学し,浴室に当院作成の講習会資料が介助方法として掲載されていた.しかし,実際は上肢の力を使用し反動で持ち上げる介助方法がなされていた.トイレ移乗では構造上160度程の方向転換が必要であり,抱きかかえ回転させる介助方法であり,腰痛の原因となる介助方法であった.

【結論】

今回実際の移乗の介助方法を見学することで,対象施設に則した指導方法の検討が可能となった.中央労働災害防止協会によると,腰痛発生に関連する複合的要因として動作要因,環境要因,個人的要因の3点を挙げている.ベッドと車椅子間の移乗ではスライディングシートを使用し腰部への負担軽減となっていた.そのため,スライディングシートを使用した際の足の位置や膝の使い方,介助姿勢,ベッド環境の変更などを指導する必要性が示唆された.入浴に関しては人数配置,時間的問題,調整不可能な機械浴用ベッドにより上記方法を行っていると考えられる.介助方法の指導,環境面の変更の他に適切な介助方法を行う必要性といった知識面の普及も重要となる.トイレ移乗では介助人数の増加や利用者本人の下肢の力の利用を指導する必要がある.今後は,対象施設に出向き直接的に介助方法の指導を行うことや介助方法の動作分析,講習前後の腰痛,介助方法の変化を経時的に追跡し,効果を明らかにする必要がある.

【倫理的配慮,説明と同意】

本取り組みはヘルシンキ宣言に基づき,対象者に目的や方法,倫理的配慮について十分な説明を行い,書面にて承諾を得た.

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© 2019 日本理学療法士協会
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