主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
p. H1-73
徒手理学療法は,運動器の機能異常を治療するための理学療法の専門領域である。単に疼痛の軽減や関節可動域改善のために徒手的技術だけを使用するのではなく,クリニカルリーズニングに基づいて,問題のある組織を鑑別し徒手的技術を駆使して運動を行いやすい状況を作った上で,問題点に対応した治療体操・生活指導によって運動機能・生活機能の改善を図る一連のマネージメントを行う治療である。徒手理学療法の対象は神経筋骨格系組織の機能異常が原因で現れる症状であり,その症状は運動器にのみに生じるものではなく,神経系,循環呼吸器系にも影響を及ぼすことがある。疾患名が同じであっても患者個々により症状は異なるため,治療は疾患特異的なアプローチではなく,問題となる構造に対してアプローチを行う。この画一的でない個別性の高い治療がエビデンス構築の障壁となっていると考えられるが,理学療法の革新を図るべく根拠に基づく理学療法を展開していくためには,臨床データの蓄積・分析を進めていかなければならない。
日本理学療法士学会徒手理学療法部門では,運動器疼痛疾患を対象とした徒手理学療法の効果に関する研究プロジェクトを2015年より立ち上げ実施してきた。プロジェクトの第1段階として,国内外における徒手理学療法の身体機能・生活機能に対する効果を検証した報告に関して,文献レビューを行った。その結果,障害部位別に頸部58件,腰部骨盤帯69件,肩関節複合体14件,肘・手関節6件,股関節2件,膝関節3件,足部・足関節7件の報告が認められた。本邦からの研究報告は皆無であった(大石敦史 他.2017)。
下肢関節疾患患者の日常生活動作(ADL)能力の効果に対する報告は脊柱疾患に比べ数少ないが,変形性膝関節症(膝OA)患者に対する徒手理学療法は,物理療法と比較し疼痛とADL能力の有意な改善効果を認めたこと(Ali SS et al. 2014),膝OA患者に対する徒手理学療法と運動指導の複合治療は,治療介入後においても疼痛やADL能力の改善が維持され,1年後における人工膝関節全置換術やステロイド注射に至る患者数を抑制すること(Deyle GD et al. 2000)が,これまでに報告されている。また,Jansenら(2011)による,膝OA患者に対する運動療法と他動的モビリゼーションの効果についてのメタ分析では,より苦痛を軽減させるために運動療法に他動的モビリゼーションを追加することは有効であると結論付けられている。
本邦においても2016年より徒手理学療法部門にて多施設共同研究を企画し予備的調査を進めてきた。50~85歳の保存治療中の膝OA患者を対象とし,4週または8週後の治療効果について調査を行った。本セミナーではその研究結果について紹介するとともに,徒手理学療法のエビデンス構築について課題と今後の展望を論じたい。