理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1-P-E-2-1
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ポスター演題
大腿骨近位部骨折術後の歩行再獲得期間に影響する要因
大坪 尚典堤 美紀山元 絵美山田 哲郎上原 健治
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抄録

【はじめに、目的】一般に、歩行再獲得は入院期間や在宅復帰に強く影響する要因とされている。また、歩行再獲得可否を従属変数とする回帰分析の研究報告は多い。しかし、再獲得までの期間に影響する要因について詳細に検討した報告は少ない。今回、生存分析を利用し、大腿骨近位部骨折術後患者の歩行再獲得期間に影響する要因を検証した。

【方法】当院整形外科において2016年5月から2018年5月までの期間に手術を受け、術後理学療法(PT)を施行した65歳以上の大腿骨近位部骨折患者85名を対象とした。対象の属性は、平均年齢±SD=84.4歳±8.0、女性60名、男性25名で、術式は髄内釘固定術55名、人工骨頭置換術23名、スクリュー固定術7名、急性期病棟からの直接退院例20例、院内地域包括ケア病棟(ケア棟)を経由して退院した例65例であった。また、各平均値±SDは、手術待機日数;4.8日±4.2、手術からPT開始までの日数(PT待機日数);1.9日±1.4、PT開始時の機能的自立度評価法(FIM)合計点;49.7点±15.1、入院時の血清アルブミン値(Alb);3.6g/dl±0.5、術後のC反応性タンパク値(CRP);2.6mg/dl±3.4、簡易栄養状態評価表の合計点(MNA-SF);5.3点±1.8、BMI;20.1±3.6をそれぞれ示した。また、AlbとCRP間にはSpearmanの相関係数γ=-2.67(p<0.05)が成立した。退院時FIM合計点;86.1点±31.0、FIM利得;36.4点±20.6、FIM効率;0.94点±0.68を示した。解析はCoxの比例ハザード法を使用し、歩行再獲得可か不可のまま退院(=打ち切り)かを状態変数とした。生存変数はPT開始から歩行再獲得までの日数とし、打ち切り例ではPT開始から退院までの日数とした。共変量は、年齢、性別、手術待機日数、術式、PT待機日数、開始時FIM合計点、ケア棟利用有無、Alb、CRP、MNA-SF、BMIの11変数とした。なお、歩行再獲得の判定は、介助や監視なしで病棟内の歩行器歩行を担当PTが許可した日と定義した。統計解析にはIBM SPSS Statistics(ver.24)を使用し、棄却域は5%未満とした。

【結果】歩行再獲得例は37名、打ち切り例は48名となった。変数増加法(尤度比)による解析の結果、PT待機日数、開始時FIM合計点、Albの3変数が選択された。各ハザード比(95%信頼区間下限-上限)は、PT開始日数;1.25(1.02-1.53)、開始時FIM合計点;1.09(1.06-1.11)、Alb;2.01(1.00-4.02)を示した。モデルカイ2乗の検定はp<0.01で有意だった。

【結論】PT待機日数が短いほど、また開始時のFIM合計点が高いほど歩行再獲得は早くなることが示された。6割以上の例で手術翌日からPTを開始しているが、術後の状態不良や休日を挟むことにより遅れる場合がある。今後、全例において手術翌日からのPT開始を目標とし、歩行再獲得期間のさらなる短縮を図る必要がある。Albについては、炎症の影響を受けており栄養状態の判断指標とするのは困難である。今回、打ち切り率が高いため解析精度が不十分だった。歩行再獲得例数の増加による精度改善が今後の課題である。

【倫理的配慮,説明と同意】全ての患者データはカルテより後方視的に入手し、個人情報の秘匿後にパーソナルコンピューター(PC)への入力と解析を行った。PC上のデータは、患者IDとは無関係の解析専用番号により管理し、患者情報との照合は紙台帳でのみ行えるようにした。なお、本学会における発表が終了次第、紙台帳は細断破棄を行う。

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© 2019 日本理学療法士協会
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