理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 2-C-6-2
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症例報告
視覚的Real-time Feedback姿勢修正練習により慢性的な腰背部痛が軽減した脊椎矯正固定術後患者一症例
内藤 小夏遠藤 敦士古谷 英孝伊藤 貴史星野 雅洋
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抄録

【症例紹介】 脊椎矯正固定術は変性後弯症に対する術式として一定の効果が示されているが,10~40%の症例が慢性的な腰背部痛を有する.慢性腰痛患者の特徴として胸腰椎の固有感覚の低下による胸腰椎のアライメント不良が指摘されており,近年これに対し,疼痛改善を目的とした視覚的Real-time Feedback(以下RF)の姿勢修正練習の効果が報告されている.本症例は脊椎矯正固定術による立位アライメントの変化から,スウェイバック姿勢が習慣化し慢性的な腰背部痛を生じていた.これに対して視覚的RFによる姿勢修正練習を行った結果,疼痛とQOLの改善が得られたため報告する.本症例は70歳代女性で,変性後弯症の診断にて矯正固定術(固定範囲:第7胸椎から仙骨)を施行した.回復期病院を経て自宅へ退院したが,術後6カ月の時点で腰背部痛が残存していたため,外来による理学療法が開始された.主症状は長時間の同姿勢の保持時と体幹運動時の腰背部痛であった.鎮痛薬の服用はしていなかった.

【評価とリーズニング】 介入時のVisual Analog Scale(以下VAS)は41mm,Oswestry Disability Index(以下ODI)は32点,MOS 36-Item Short-Form Health SurveyのPhysical Component Summary(以下PCS)は19.8点であった.立位アライメントのレントゲン画像上の評価には,腰椎の前弯角度を示すLumbar Lordosis(以下LL)と,第7頸椎を通る垂線と仙骨の後上縁との距離を示すSagital Vertical Axis(以下SVA)がある.本症例の術前と術後6か月時のLL[°]は-23,44,SVA[mm]は160.2,2.9であり,脊椎矯正固定術により大きなアライメントの変化が生じた.本症例の立位姿勢は過剰に股関節を伸展させ,骨盤が前方へ変位し,胸椎の後弯が大きいスウェイバック姿勢であった. 下肢の単関節可動域は正常範囲内であったが,左右のStraight Lag Raising (以下SLR)は45度と著明な制限がみられ,ラセーグテストは陰性であった.これらの評価から本症例は,手術前後の大きなアライメント変化による筋の緊張と,手術時の腰背部への侵襲により胸腰椎の固有感覚の低下が生じ,正中位姿勢保持能力が不良となり,胸椎の後弯が強いスウェイバック姿勢が習慣化したと考えた.そのため慢性的な腰背部痛の原因は,この胸椎の後弯角度の増加による周囲組織へのメカニカルストレスであると考えた.以上より理学療法プログラムには,緊張が高いハムストリングスのストレッチに加え,矢状面での胸椎のアライメントを直接認識できる視覚的RFを使用した姿勢修正練習が必要と考えた.

【介入内容と結果】 介入は効果判定のためにABA法にて実施した.介入期間は,A期3週間,B期4週間,最後のA期(以下A′)2週間とした.介入頻度は週に1回とした.A期の介入内容は,ハムストリングスのストレッチ,脊柱起立筋,下肢筋力トレーニングとした.B期はA期の介入内容に加え,視覚的RFを与えた姿勢修正練習を実施した.方法はビデオカメラで症例の矢状面上の座位姿勢を撮影した.症例には,撮影したリアルタイムの映像をモニターにて観察させた.この状態でまず位置覚の練習として胸腰椎を屈曲位から正中位へ戻し保持する練習を行って頂いた.次に正中位での姿勢を保持するよう注意を払いながら前方へのリーチ運動,起立練習,下肢筋力トレーニングを行って頂いた.これらの練習は徐々に視覚情報を減らし,閉眼時でも行えるようセラピストが促した.さらに自主練習として正中位の姿勢を示したパンフレットを渡し,自宅の姿勢鏡を使用した簡易的な姿勢修正練習を指導した.A′期の介入内容は,A期と同様とした.VASは介入毎に測定した.介入効果は臨床的最少重要変化量(Minimal Clinically Important Difference:以下MCID)を上回るかどうかで判定した.先行研究によると,慢性腰痛患者を対象としたVAS,ODI,PCSのMCIDはそれぞれ23mm,15点,5.6点であった.本症例のVAS[mm]はA期終了時で29,B期終了時に6,A′期終了時に4であり,B期でMCIDを上回り,A′期でもその効果は持続した.ODIはA′期終了時点で36点であり,MCIDを上回る改善は見られなかった.PCSはA′終了時点で26.1点であり,MCIDを上回る改善がみられた.

【結論】視覚的RF姿勢修正練習を行ったことにより,本症例の正中位での姿勢保持能力が改善したため,腰背部痛が軽減したと考える.脊椎矯正固定術後の慢性腰痛に,姿勢修正能力へのアプローチが有効であることが示された.

【倫理的配慮,説明と同意】本症例検討はヘルシンキ宣言に基づいて,事前に研究の目的,研究の方法,研究への参加者に起こり得る不利益とその対応,研究参加の任意性と撤回の自由,個人情報の保護に関すること,研究成果の公表に関することについて十分な説明を行い,同意を得た上で実施した.

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© 2019 日本理学療法士協会
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