理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 2-C-3-1
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症例報告
同種半月板移植術後の関節拘縮に対して共同的推論により良好なROM獲得に至った症例
目黒 智康桒原 慶太占部 憲
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抄録

【症例紹介】右膝円板状半月に対する半月板亜全摘出を原因とした右変形性膝関節症(0A)患者に対して,同種外側半月板移植術を施行した症例の理学療法を経験した.本邦における同種半月板移植の報告は限られており,特に具体的な理学療法の経過を提示した報告は少ない.早期の機能改善が望まれたが,術後のROM拡大に難渋した経過となったため,本症例の理学療法経過を提示し,半月板移植術の適応や実施した理学療法の成績について報告する.症例は40歳代の男性.職業は自衛官で,肉体労働をすることも多い.また,スポーツ活動としてバドミントンを行っている.30年前に他院で右膝円板上半月亜全摘出術を施行した.その後,仕事やスポーツは実施可能であったが,数年前から激しい運動をすると右膝外側部痛が出現していた.単純X線検査では、Kellgren-Lawrence分類3度のOAを認め,MRIでは外側大腿脛骨関節面の軟骨の広範囲露出を認めた.内側コンパートメントは正常であった.疼痛の改善とOA進行予防を目的として,同種外側半月板移植術を施行した.膝関節の関節可動域運動(ROMex)は術後2週から屈曲45°の範囲で開始となり,その後1週間ごと屈曲90°,屈曲120°まで拡大許可であった.

【評価とリーズニング】生理的他動運動の評価として,膝関節のROMは,術後2週目で屈曲45°,伸展-10°であった.他動運動時に大腿部に筋痙攣を認め,かつ大腿四頭筋(quad)やハムストリングスに高度のstiffness増大を認め,同部位には圧痛も認めた.また,膝蓋腱周囲と膝蓋下脂肪体には他動屈曲時に伸張痛,さらに圧痛を認めた.膝蓋大腿関節は,膝蓋骨全方向に可動性が制限を認めた.屈曲角度を制限する要因は,術侵襲と術後不動期間に伴う筋spasm,Gerdy結節からTFL遠位部にかけての滑走不全,膝蓋内外側支帯の滑走不全,膝蓋腱と膝蓋下脂肪体の滑走不全と推察した.拘縮の程度が強いことが推察され,主治医と協議しROM拡大は屈曲90°までは可及的速やかに実施することとした.術後4週で屈曲80°,伸展-10°まで改善したが,その後屈曲角度は80°で停滞した.屈曲end feelは,かなり硬い抵抗性であり,Gerdy結節から大腿筋膜張筋(TFL)の遠位部に限局したかなり強い伸張痛を訴えた.同部位には圧痛も認めた.術後4週時点での屈曲角度を制限する原因として,Gerdy結節からTFLにかけての滑走障害および癒着が最も強いと推察した.この時点で,屈曲制限がTFL下での癒着の可能性が強いとの臨床判断を主治医とも行い,早期に関節授動術に臨むこととした.本人のhopeが早期の関節可動域拡大であったことから,本人への説明を十分に行い,術後5週で関節授動術を実施した.関節授動術までの理学療法は、可能な限り膝関節周囲組織(皮膚、膝蓋下脂肪体、膝蓋上嚢、quad,TFL)の伸張性の増大と滑走性の改善を図ることとした.

【介入内容および結果】術後2週から4週までは,疼痛が強く筋痙攣が生じていたことから,Ib抑制や相反抑制を利用したquadやハムストリングスのROMexを実施した.また,MaitlandのGradeⅢ,Ⅳの他動屈曲・内旋運動、膝蓋大腿関節の他動運動,およびTFLや膝蓋下脂肪体へのmobilizationを実施した.結果,即時的に硬さは改善するが,Gerdy結節からTFL遠位部の屈曲最終域での疼痛と圧痛は大きく変化しなかった.関節授動術の所見として,Gerdy結節とsuprapatellar porchで癒着が剥離し,130°まで屈曲可能となった.関節授動術後は,屈曲最終域でquad遠位部の伸張痛とTFLの伸張痛に限局的となり,圧痛は認めなかった.授動術前の治療に加えて,quadの持続ストレッチや荷重下での筋力増強運動を追加し,術後6週で屈曲145°,独歩獲得に至った.術後5ヶ月では,膝関節ROMは全可動域獲得し,ジョギングも可能となった.

【結論】同種半月板移植術の適応は,50歳以下,半月板切除に限局したコンパートメントの疼痛,正常な下肢アライメントなどが挙げられる.本症例は,仕事やスポーツに要求が高く,外側コンパートメントに限局した疼痛とOA変化であった.したがって,半月板機能再建の適応と考えられたため、同種半月板移植術が施行された.術後リハビリテーションが確立されてないなかでの理学療法では,主治医と綿密な情報共有を図る必要があった.術後の関節拘縮の原因であった癒着に対するシームレスな治療方針立案も,本人を含めて主治医との共同的推論が重要であったと考える.

【倫理的配慮,説明と同意】報告に際し本人に文書にて説明をし,自署にて同意を得た.

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© 2019 日本理学療法士協会
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