理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 2-M-8-1
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ミニオーラル
変形性股関節症患者の歩行能力は身体活動範囲に関係する
-人工股関節全置換術術後3カ月の縦断的な変化-
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抄録

【はじめに、目的】

変形性股関節症(変股症)は機能障害により歩行能力の低下が生じるため,活動範囲も同様に低下していると考えられる.また,人工股関節全置換術(THA)後は股関節機能の改善に伴い、歩行能力のみならず活動範囲も改善することが予測される.このように変股症患者の身体機能,歩行能力,活動範囲は相互に関係し,縦断的に変化することが考えられるが,渉猟する限り明らかではない.本研究の目的は変股症患者の身体機能と歩行能力および歩行能力と活動範囲の関係,またそれらの縦断的な変化を明らかにすることで,効果的な理学療法の介入点を探ることとした.

 

【方法】

対象は当院でTHAを実施した変股症患者19名とした.術側下肢以外に歩行時の疼痛がなく,JOA Hip scoreにて非術側下肢の疼痛35点以上,歩行能力15点以上の症例を対象とし,対側下肢の影響を除外した.測定時期は術前および術後3カ月とし,術側股関節機能として,股関節の筋力および可動域(屈曲,伸展,外転,内転,外旋,内旋),疼痛(Visual analog scale:VAS)を測定した.歩行能力はTimed Up & Go Test(TUG)を評価し,活動範囲の評価はE-SASを用いた.各時期において身体機能とTUGおよびTUGとE-SASで測定した各項目に関してピアソンの相関係数を用いた.また,Shapiro-wilk検定を行い,正規性の検定を実施したのち,対応のあるt検定もしくはWilcoxon順位和符号付検定を用いて各測定項目の術前と術後3カ月時点で差の検定を実施した(p<0.05).

 

【結果】

術前のTUGは伸展筋力(r -0.637),内旋筋力(r-0.604)と有意な相関があり,術後3ヶ月では身体機能と有意な相関はなかった.TUGと活動範囲に関して,術前は生活の広がり(-0.651),転ばない自信(-0.514)と有意な相関があり,術後3カ月では,生活の広がり(-0.588), 休まず歩ける距離(-0.503)と有意な相関があった.術前と比較し術後3ヶ月ではすべての筋力と関節可動域は有意に増加し,疼痛は有意に減少していた.また,TUG,転ばない自信,休まず歩ける距離も有意に増加していたが,生活の広がり,人とのつながりに有意な差はなかった.

 

【結論(考察も含む)】

術前の変股症患者のTUGは伸展筋力と内旋筋力と負の相関を示し,変股症患者の術前および術後のTUGはともに生活の広がりと正の相関を示した.このことから,TUGの改善は活動的な生活を送ることにつながると考えられた.また,術前の理学療法による股関節伸展および内旋筋力の強化は歩行能力の改善を介して,活動範囲の増大につながり得ることが示唆された.

 

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究は申請者の所属施設にて倫理委員会の承認を受けた(承認番号54).本研究はヘルシンキ宣言に則り行われており,対象者には本研究の計測及び評価の趣旨,研究協力の任意性と撤回の自由について十分な説明を行い,書面に同意を得た上で行われた.

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© 2019 日本理学療法士協会
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