理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 2-P-B-3-1
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ポスター演題
左右の咬合が頭部と胸郭形状に与える影響
小出 慧柿崎 藤泰
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キーワード: 咬合, 胸郭, 頭部回旋
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抄録

【はじめに、目的】咬合は歩行同様に毎日繰り返される動作である。臨床場面においては、下顎偏位や咀嚼筋の筋バランスの低下を有している方が頚椎や胸郭の問題を同時に有しており、それが姿勢や全身の筋緊張に影響していることが多く見られる。咬合と姿勢や動作の関係性についてはスポーツや歯科領域の分野においても着目されている。そこで理学療法士の視点で咬合が姿勢や各運動器に及ぼす影響をより明確にすることで、この分野のさらなる発展につながることが期待できる。

 そこで本研究では、咬合が安静坐位での頭部や胸郭形状に与える影響を明確にすることで臨床に応用できる運動学的知見を得ることを目的とする。

【方法】対象者は健常成人10名(27.5±3.7歳)とした。課題動作は、なにも噛まない、左大臼歯にて咬合紙を噛む、右大臼歯にて咬合紙を噛むの3条件とし、それぞれの条件下にて正面につけた印を注視した状態で5秒間の安静坐位を3回実施とした。測定機器は3次元動作解析装置 (VICON-MX,VICON社)を使用し、貼付した赤外線マーカーにて体幹に対する頭部の回旋角度と胸郭中心点に対する頭部中心点座標、骨盤中心点に対する胸郭中心点座標を計測した。頭部中心点は左右側頭突起の中点と左右乳様突起の中点を結んだ線の中点、胸郭中心点は剣状突起とその左右水平線上に背面に投影した棘突起上の点の中点、骨盤中心点は左右上前腸骨棘の中点と左右上後腸骨棘の中点を結んだ線の中点と設定した。データ解析は平均値を代表値とし、なにも噛まない条件を基準としてその他条件と比較検討した。頭部の回旋角度はオイラー角を用いて算出した。統計学的判断は、一元配置分散分析反復測定で主効果を確認後、なにも噛まない条件を基準としたDunnett検定を用いて検討した。なお解析には統計ソフトウェアSPSS(IBM社製)を使用し、有意水準はそれぞれ5%未満とした。

【結果】頭部の回旋角度は、左大臼歯にて咬合紙を噛むことでなにも噛まない時に比べ右回旋角度が有意に大きくなった(p<0.05)。また骨盤中心点に対する胸郭中心点座標は、左大臼歯にて咬合紙を噛むことによりなにも噛まない時に比べ右側方に有意に移動していた(p<0.05)。胸郭中心点に対する頭部中心点座標では有意差はみられなかった(n.s)。

【結論(考察も含む)】左大臼歯で咬合することにより、なにも噛まないと時に比べ頭部が右回旋し、また胸郭は右側方へ移動することが分かった。本研究では正面につけた印を注視しながら計測をしているため、頭部が回旋したのではなく体幹部が左回旋したことによる相対的な右回旋であることが示唆される。また体幹の回旋動作には反体側への胸郭の並進が伴うという報告がある。このことから、左大臼歯での咬合が体幹部の左回旋を生じさせ、それにより胸郭の右側方移動が起きたことが示唆される。本研究の結果により咬合が体幹、胸郭に影響を与えることが明らかとなった。

【倫理的配慮,説明と同意】本研究は文京学院大学大学院倫理審査委員会の了承を得た(承認番号:2017-0037)。ヘルシンキ宣言に基づき、各対象者に対して本研究の目的や方法などの概要、本研究の参加によって生じる利益・不利益、その他必要な事項を書面にて説明し、同意書に氏名を記載して頂き研究協力の同意を得た。本研究への参加は、被験者の自由意思に従うものであることを十分に説明し実験中に参加拒否を示しても不利益が生じないことを説明した。

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© 2019 日本理学療法士協会
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