主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに、目的】人工膝関節全置換術(以下、TKA)は、変形性膝関節症患者の疼痛緩和と可動域改善を目的として広く行われている。TKA術後患者に対する理学療法では、術後早期の可動域確保や疼痛管理に加えて、早期離床が目標となる。近年、種々の疾患において、患者による治療経過予測が、患者の治療後の生活の質に強く関連することが報告されている。本研究では、TKA術後患者の離床、とりわけ病棟内T字杖歩行自立までに要する日数(以下、歩行自立日数)に関連する術前予測因子を同定することを目的とした。
【方法】2014年4月1日~2017年3月31日に当院にてTKAを施行された患者のうち、片側変形性膝関節症例、リウマチ性膝関節症例、複数回置換例、歩行障害を呈するその他の疾患合併例、術後経過中の感染合併例を除外した52例を対象とし、当院のTKA術後クリニカルパス通りに術後17日以内に病棟T字杖歩行自立に至らなかった群(以下、未自立群)と至った群(以下、自立群)に分け、比較検討を行った。評価項目は、術前の診療録より術側、年齢、性別、身長、体重、Body Mass Index(以下、BMI)、膝関節屈曲角度(以下、屈曲角度)、膝関節伸展角度(以下、伸展角度)、Kellgren-Lawrence grading、femoro-tibial angle、Knee society score、膝関節JOA score、担当理学療法士、術後の診療録より屈曲角度、伸展角度、手術日、歩行自立日数、退院日をそれぞれ後方視的に収集し、術前後における屈曲角度改善量、伸展角度改善量、歩行自立日数、術後在院日数をそれぞれ算出した。統計学的解析にはSPSS version 24を用い、spearmanの順位相関係数、対応のないt検定、Mann-WhitneyのU検定、χ2検定、二項ロジスティック回帰分析、ROC曲線の描出を行った。なお、有意水準は5%とした。
【結果】対象の年齢は73.8±8.8歳、BMIは27.4±3.9 kg/m2、男性20例、女性32例であり、未自立群は11例、自立群は41例であった。2群比較の結果、未自立群は自立群より術前伸展角度が有意に低値を示し(-14.1±10.7° vs -7.3±7.8°、p=0.036)、術後在院日数は有意に延長した(31.5±8.5日 vs 23.9±5.0日、p<0.01)。また、未自立群は術前後における伸展角度改善量が大きい傾向にあり(9.5±10.4°vs 3.8±8.0°、p=0.097)、術前伸展角度と伸展角度改善量には強い負の相関を認めた(r=-0.825、p<0.01)。術前伸展角度は、多変量解析において年齢、性別、BMIによる補正後も歩行自立日数の説明因子として抽出され(OR[95%CI:1.007-1.171]、p=0.033)、そのカットオフ値は-12.5°であった。
【結論】術前伸展角度は、歩行自立日数に対する独立した予測因子であることが示唆された。術前伸展角度が低値の患者はTKAにより伸展角度が大きく改善する為、新たなアライメントや筋活動の再学習に時間を要し、歩行自立が遷延することが推察される。そのため、術前伸展角度が-15°以下の患者には治療経過予測に関する適正な情報提供が必要と考える。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は香川大学医学部倫理審査委員会の承認(平成29-139)を得て実施した。