主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに・目的】
下肢拳上運動には脊椎と骨盤の固定が必要であり、特に腹横筋の筋活動が重要と報告されている。我々はこれまでに、変形性股関節症患者では腹部凹まし運動による腹横筋の単独収縮は機能低下が生じていることを報告してきた。しかし、変形性股関節症患者の動作時の腹横筋を含めた腹部筋活動についての報告は見当たらない。本研究の目的は、下肢拳上保持中の腹部筋の筋厚変化について健常者と変形性股関節症患者を比較・検討することを目的とした。
【方法】
対象者は、当院整形外科に変形性股関節症の診断により手術目的で入院し術前理学療法を実施した17名(以下、Hip OA群:59.88±5.18歳)、および整形疾患等の既往歴のない20名(以下、健常者群:57.95±3.94歳)とした。
超音波診断装置はHI VISION Avius(日立製作所)を使用し、画像表示モードはBモード、5~17MHzのプローブで撮影した。測定部位は、患側中腋窩線上における肋骨辺縁と腸骨稜の中央部で内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋の境界を描出し同一検者により実施した。
測定項目は、安静時および下肢挙上保持中の腹部筋厚とした。安静時腹部筋厚は、呼気終末時での筋厚を測定した。下肢拳上保持は、ベッドと腰椎の間に40mmhgに加圧した圧バイオフィードバック装置(CHATTANOGA GROUP)を挿入した背臥位を開始肢位とし、膝関節伸展位で床面から踵部を10cm拳上保持させた時を下肢拳上保持腹部筋厚とした。この時、対象者が圧バイオフィードバック装置のインジケータの圧を40mmhgで保つように指示した。
健常者群とHip OA群の安静時腹部筋厚、下肢拳上保持腹部筋厚、安静時と下肢拳上保持からの腹部筋厚変化率についてMann-Whitney U検定を実施した。統計処理には、SPSS 20.0J for Windows(エス・ピー・エス・エス株式会社)を使用し有意水準は5%とした。
【結果】
安静時腹部筋厚に有意差は認められなかった。下肢拳上保持は、内腹斜筋(健常者群0.62±0.14cm、Hip OA群0.76±0.22cm:p<0.03)、外腹斜筋(健常者群0.47±0.12cm、Hip OA群0.70±0.22cm:p<0.01)、腹横筋(健常者群0.45±0.09cm、Hip OA群0.34±0.13cm:p<0.01)となり有意差が認められた。腹部筋厚変化率は、内腹斜筋(健常者群5.74±10.22%、Hip OA群22.00±21.34%:p<0.01)、腹横筋(健常者群30.67±14.19%、Hip OA群13.23±25.39%:p<0.01)となり有意差が認められた。
【結論】
健常者群と比較しHip OA群の腹部筋厚変化率は、内腹斜筋は増加し腹横筋は減少していた。このことから、変形性股関節症患者は動作時では腹横筋活動が不十分のため内腹斜筋の活動で体幹の安定性を代償している可能性が示唆された。そのため、Hip OA患者の理学療法では腹部筋の影響も考慮し評価・実施する必要があると考える。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿い、北海道大学病院の自主研究検査機関の承認(自010-0050)を受け、被験者本人の自由意思による文書同意を得てから行った。