理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1-M-2-2
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ミニオーラル
椎体圧迫骨折患者の歩行再獲得期間に影響する要因
葛巻 尚志大坪 尚典堤 美紀山元 絵美山田 哲郎上原 健治
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抄録

【はじめに、目的】椎体圧迫骨折は当院における理学療法(PT)の全対象中12%、全整形外科疾患の26%を占め、近年その割合は漸増傾向にある。当院では、圧迫骨折の約半数は入院加療が選択されている。平均在院期間は約6週、最大で15週に達し、歩行自立の遷延が長期入院の原因と指摘されてきた。そこで今回、歩行再獲得期間に影響する要因の検証を行った。

【方法】平成28~29年度に当院整形外科に入院し、PTを施行した圧迫骨折患者72名、女性55名、男性17名、平均年齢±SD=81.3歳±7.1を対象とした。歩行自立日の定義は、介助や監視なしでの病棟内歩行器歩行を許可した日とした。除外規定は、高エネルギーによる若年受傷者、観血的治療、他施設からの紹介、受傷前から歩行不能な例とした。対象の属性は、骨折部位;胸椎21例、腰椎43例、胸腰椎8例、骨折椎体数;単椎体52例、2椎体以上20例、受傷前ADL;正常39例、J1:8例、J2:10例、A1:12例、A2;3例、転入元;自宅67例(うち、独居や介護者なし61.2%)、施設5例、地域包括ケア病棟(ケア棟)利用56例、非利用16例、であった。また、各平均値±SDは、入院後の安静臥床日数;9.3日±10.5、入院からPT開始までの期間(PT待機日数);11.1日±8.1、入院から歩行器歩行自立までの期間(歩行自立日数);23.5日±12.5、総在院日数;48.5日±20.1、PT開始時FIM合計点(開始FIM);75.8点±18.1、入院時血清アルブミン値(Alb);3.8g/dl±0.4、をそれぞれ示した。解析は、歩行自立日数を従属変数とする重回帰分析により行った。独立変数は、年齢、性別、骨折の部位と椎体数、受傷前ADL、転入元、ケア棟利用有無、安静臥床日数、PT待機日数、開始FIM、Albとした。統計解析はIBM SPSS Statistics(ver.24)を使用し、棄却域は5%未満とした。

【結果】重回帰式「歩行自立日数=23.3+0.96×PT待機日数-0.20×開始FIM+6.2×ケア棟利用有無」が成立した。選択された各独立変数の95%信頼区間下限~上限は、PT待機日数(p<0.01);0.71~1.21、開始FIM(p<0.01);-0.31~-0.09、ケア棟利用有無(p<0.05);1.54~10.90を示した。分散分析表の結果はp<0.01で有意であり、R2乗値は0.63で適合度は高かった。Durbin-Watson比は2.27で問題なく、±3SDを超過する外れ予測値はなかった。

【結論】圧迫骨折後のPTでは、廃用の予防と臥床期間の短縮を図ることが重要である。今回、PT開始が1日遅れる毎に歩行自立も1日遷延することが明らかとなり、PT開始をさらに早める必要性が示された。また、ケア棟利用により、歩行自立は約6日遅れることが示された。これは、急性期病棟よりも時間的な余裕をもってPTを施行するためと考えられる。同時に、ケア棟は適切な介護保険プランの立案と提供のために重要な役割を果たしている。ケア棟にあっても早期の歩行自立を目指すことは必要だが、性急な退院によるサービス低下は避けるべきであり、歩行自立と退院準備のバランスを保つことが大切である。

【倫理的配慮,説明と同意】全ての患者データはカルテより後方視的に入手し、個人情報の秘匿後、パーソナルコンピューター(PC)への入力と解析を行った。PC上のデータは、患者IDとは無関係の解析用番号により管理し、患者情報との照合は紙台帳でのみ行えるようにした。なお、本学会における発表が終了次第、紙台帳は細断破棄を行う。

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