理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1-M-2-4
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ミニオーラル
体幹伸展運動が腰痛を想定した腰背筋疲労モデルにおける多裂筋shear modulusに及ぼす影響
隈元 庸夫松田 涼三浦 紗世田井 将彦奥村 崇幸世古 俊明
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抄録

【目的】腰痛には腰部多裂筋のdysfunctionが関係しており(Freeman:2010),多裂筋stiffnessが増加している(Chan:2012).若・中年の医療従事者の腰痛には多裂筋stiffnessが関係しているとの報告もある(Masaki:2017).体幹屈曲姿勢が多い介護職などにおいては立位での体幹伸展運動が腰痛改善と予防に効果があると報告されている(Matsudaira:2015).しかし腰背筋群自体の筋生理学的変化については言及されていない.体幹屈曲位姿勢では腰背筋の内圧が高まる.筋内圧が高まることによる筋阻血が腰痛の一因であるとする報告もある(Konno:1994).そのため,体幹伸展運動が阻血性腰痛に対する循環動態の改善として効果を表した可能性も考えられる.そこで我々は体幹伸展位での多裂筋部の血流動態について近赤外線分光法にて組織循環動態を検討した結果,皮下1.5cm相当部位での血流改善を報告している(Kumamoto: 2016).これは体幹伸展位保持による多裂筋の弛緩が阻血性腰痛の軽減につながった可能性があるが,筋弛緩が本当に生じていたかは不明であり,その即時的効果をshear modulusの観点から検証した報告はない.本報告の目的は阻血性の非特異的腰痛を想定した腰背筋疲労モデルを設定し,体幹伸展運動による多裂筋の筋生理学的変化を剪断波エラストグラフィで検証することである.

【方法】健常者33名(年齢23.7±6.4歳,BMI21.6±1.5)を対象とした.腰背筋疲労モデルには60秒間のSorensen fatigue test(SFT, Silva: 2005)を行わせた.SFT後に立位にて被験者が両手掌で骨盤を前方に押し出すように体幹を最大伸展し10秒保持する体幹伸展運動を5セット行わせた(Ex).対象を無作為にF-Ex(SFTを行い,Exをする)群,F-nEx(SFTを行い,Exをしない)群,nF-Ex(SFTを行わず,Exをする)群の3群(各群11名)に振り分けた.F-nEx群はExと同じ時間を立位保持させた.なお本研究に必要なデータ取得後にはF-nEx群にもExを実施した.超音波画像診断装置(Aixplorer, KONICA MINOLTA),リニアプローブ(SL10-2)を使用して,立位での多裂筋部のshear modulusを解析ソフト(Q-BoxTM)にてEx前後(pre, post)で定量的に算出した.Shear modulusの再現性,群内比較と群間比較の統計学的分析には統計ソフトウェアR(version 2.8.1)を用い,有意水準5%とした.

【結果】全ての対象において有害事象は発生しなかった.Shear modulusの再現性はICC0.90(0.68-0.97)であった.群内比較ではF-Ex群でpre19.3±9.1kPa, post8.9±4.7kPaと有意差がみられ,F-nEx群ではpre19.6±9.1kPa, post21.2±11.2kPa, nF-Ex群ではpre5.7±2.9kPa, post4.7±1.1kPaと有意差がみられなかった.群間比較ではpreでF-Ex群とF-nEx群にnF-Ex群と比較して有意差がみられ,postでは全群間に有意差がみられた.

【結論】体幹伸展運動は多裂筋弾性率の減少がみられるため,筋疲労による阻血性腰痛における筋弛緩性の疼痛軽減が期待できる.

【謝辞】本研究はJSPS科研費JP17K01517の助成を受けたものである.

【倫理的配慮,説明と同意】被験者には測定前に目的と内容を十分に説明し,書面にて同意を得たうえで実施した(埼玉県立大学倫理委員会承認番号29015号,北海道千歳リハビリテーション大学倫理委員会承認番号千リ倫18001号).

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© 2019 日本理学療法士協会
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