主催: 日本理学療法士協会
会議名: 第53回日本理学療法学術大会 抄録集
開催日: 2018/07/16 - 2018/12/23
【はじめに】
脛骨近位部骨折におけるquality of life(患者QOL)の低下は,臨床経験においてしばしばみられる.しかしながら,機能成績や予後に関する研究は散見される中,患者QOLに関する研究は少なく,機能成績との関連も明らかでない.本研究の目的は,脛骨近位部骨折に対して,患者立脚型評価であるKnee injury and Osteoarthritis Outcome Score(KOOS)を用いて評価し,関連する運動機能について検討することである.
【方法】
対象は2015年10月から2017年5月までの脛骨近位部骨折術後患者37例のうち,術後1年に経過観察が可能であった17例(男性:8例/女性:9例)を対象とした.平均年齢は57±15(36~79)歳,骨折型はSchatzker分類を用いてtypeⅡ:6例,typeⅣ:6例,typeⅤ:1例,typeⅥ:3例,分類不可:1例であった.初期治療は,シーネ固定13例,創外固定4例,その後内固定を行った.
後療法は,全例術翌日より疼痛自制内で他動,自動での関節可動域(ROM)運動を開始した.術後8から10週で全荷重が許可された.全荷重許可後は荷重下での筋力増強運動及び歩行練習を開始した.
評価項目は,術後1年時の患者立脚型評価としてKOOSを,客観的評価として膝関節屈曲/伸展ROM,等尺性膝関節伸展筋力健側比をカルテから後方視的にデータを収集した.KOOS下位項目(symptoms(S)/ pain(P)/ activity(A)/ sports(SP)/ QOL(Q))と客観的評価項目の関連をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した.統計解析はR2.8.1を使用し,有意水準はp<0.05とした.
【結果】
術後1年時のKOOSはS 66.5±20.2(28.6~92.9)/ P 69.3±19.4(30.6~100)/ A 77.6±16.8(42.6~100)/ SP 52.2±25.9(10~90)/ Q 50.1±29.2(6.3~100),膝関節屈曲ROM135±14(110~155)度/伸展ROM-7±9(-30~5)度,膝伸展筋力健側比74±24(8~112)%であった.
KOOS下位項目のP,Qと筋力健側比でそれぞれ中等度の相関(r=0.61,r=0.56)を認めた.その他の項目間に有意な相関は認めなかった.
【考察】
脛骨近位部骨折の臨床成績は良好とする報告が多いが,Sven(2015)らはロッキングプレートを用いた脛骨近位部骨折の治療成績のなかで,良好な機能成績とQOLの低下を報告している.本研究においても同様にROMは良好であっても,患者QOLの低下がみられた.また,膝伸展筋力とPに相関がみられ,これらが患者QOL低下の主な要因であると考える.
本研究より,機能評価のみでなく患者QOL評価も重要であり,筋力や疼痛の改善を図ることが患者QOLの改善の一要因となることが示唆された.本研究の限界として,術後整復位が機能成績及ぼす影響は報告されているが,今回十分な検討を行うことができていない.今後,詳細な疼痛評価とともに患者QOLに関連する因子を調査し,効果的な運動療法を明らかにすることが必要である.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り,十分な配慮を行ったうえで調査を実施した.