理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1-P-D-2-1
会議情報

ポスター演題
腰痛を呈する妊婦へ理学療法を実施した際の介入前後と産後1ヶ月までの経時的な身体機能変化
布施 陽子杉本 結実子茅根 沙由佳中村 浩明
著者情報
キーワード: 妊婦, 腰痛, 腹横筋
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【症例紹介】症例は妊娠33週目の経産婦である。妊娠中期より寝返り時に腰痛を呈し、妊娠後期より背臥位でも痛みを生じ理学療法介入となった。

【評価とリーズニング】立位姿勢評価では、骨盤前傾位(腰椎前弯,仙骨前傾)を呈しており、ASISとPSISは4横指の距離を示した。周径計測では、最大腹囲周径101.0cm,骨盤周囲径(恥骨結合下縁上を通る周囲径)103.5cmを示した。超音波診断装置による評価では、骨盤底筋群評価として膀胱底からの挙上量(安静呼気終末時),腹横筋評価として腹横筋厚(安静吸気終末と安静呼気終末の変化量)を計測し、膀胱底からの挙上量13.0mm,腹横筋厚変化量は左右とも0.0mmであった。また、産婦人科医による頚管長計測は33.0mmを示した。痛みの再現性評価としては背臥位からの寝返り動作を実施し、背臥位より両側PSISライン上に痛みを訴え、寝返り動作により痛みの増強を伴った。疼痛スケール(VASによる10段階評価)は4を示した。姿勢評価より腰仙椎の弯曲が強く、インナーユニットである骨盤底筋群と腹横筋の機能不全により背臥位や寝返り動作時に仙骨の過度なうなずき運動を抑制出来ず、痛みを生じていると推測した。仮説に基づき、徒手的に仙骨下方を触知し、仙骨を後傾方向へ力を加えながら痛みの再現性評価を再度実施したところ、痛みは出現しなかった。さらに仙骨を後傾誘導することで痛みのない背臥位姿勢保持が可能となった。以上の評価より、骨盤前傾に伴う仙骨の過剰な前傾(うなずき運動)、妊娠に伴うインナーユニットである骨盤底筋群,腹横筋の機能破綻を問題点とした。

【介入と結果】介入方法としては、1.超音波診断装置による視覚的フィードバックを用いた骨盤底筋群,腹横筋の収縮練習、2.タオルストレッチポール上背臥位で仙骨を後傾誘導した状態で、呼吸運動を1分間(第44回日本理学療法学術大会により腹横筋EXとして有効であると立証)、3.介入2姿勢でのu・oの発声(第46回日本理学療法学術大会により腹横筋EXとして有効であると立証)を伴いつつ骨盤底筋群収縮練習、の3種類を実施した。介入2,3では、理学療法士のみが超音波画像により骨盤底筋群,腹横筋を確認し、症例が視覚的フィードバックを用いずに両筋の収縮が可能となるよう練習した。また、介入2,3は妊娠期間中のホームエクササイズとして実施するよう指導した。介入による効果判定として、介入直後,3週間後(妊娠36週目),出産直後(分娩3時間後),産後1ヵ月に介入前に評価した項目(姿勢評価としてASISとPSIS間距離,最大腹囲周径,骨盤周囲径,骨盤底筋群評価として膀胱挙上量,腹横筋厚変化量,頚管長,痛みスケールVAS)を実施した。それぞれの結果を時系列(介入直後,3週間後,出産直後,産後1ヵ月)に示すと、ASISとPSIS間距離(3.5横指,3.5横指,3.5横指,2.5横指),最大腹囲周径(101.0cm,103.0cm,96.5cm,88.0cm),骨盤周囲径(102.0cm,102.0cm,104.0cm,99.0cm),膀胱挙上量(18.5mm,16.8mm,8.2mm,8.2mm),左腹横筋厚変化量(1.3mm,1.2mm,0.8mm,2.5mm),右腹横筋厚変化量(1.2mm,1.6mm,0.8mm,2.8mm),頚管長(33.0mm,33.0mm,未計測,未計測),VAS(0,0,0,0)となった。本症例は、正常分娩であり会陰切開は無かった。

【結論】介入により、仙骨を含む骨盤前傾の減少,骨盤周囲径の減少,骨盤底筋群と腹横筋の機能向上,そして痛みが消失した。骨盤底筋群の収縮は仙骨の起き上がり運動と坐骨結節間の短縮を伴うとされており、腹横筋は姿勢保持作用,腹腔内圧調整作用を持つと言われている。骨盤底筋群の収縮による骨盤のアライメント修正に加え、腹横筋の収縮による良肢位保持作用により、妊娠中は介入前よりも骨盤周囲径が減少した状態を維持できたと考えられる。また介入前後で頚管長差がなかった事から、早産リスクを高めるほど過度な腹圧をかけた介入内容ではないと考えられた。出産直後は骨盤周囲径の増大、膀胱底挙上量,腹横筋厚変化量の減少が著しく認められ、分娩時の骨盤形態変化に伴うインナーユニットへの過負荷が推測された。しかし、分娩時の会陰切開は認めず出産直後の評価から腰痛の訴えもなかった事から、分娩時には一時的にインナーユニットへの過度な負荷を生じるが、産前に骨盤底筋群と腹横筋に焦点を当てた呼吸指導を実施した事により、分娩時や出産直後からインナーユニットとしての呼吸運動が実践され、産後の腰痛予防にも繋がったと考えられた。

【倫理的配慮,説明と同意】本研究については、文京学院大学倫理委員会の承認(承認番号:2017-0054)、また東京北医療センター生命倫理委員会(承認番号:185)を得た上で、症例に対して事前に本研究の趣旨について十分に説明した後、書面での同意を得て実施した。

著者関連情報
© 2019 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top